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はじめてのオペレーションズ・リサーチ [読書感想文]

 鳩山由紀夫元総理が大学院で研究していたと言うアレ。

はじめてのオペレーションズ・リサーチ (ちくま学芸文庫)

はじめてのオペレーションズ・リサーチ (ちくま学芸文庫)

  • 作者: 芳正, 齊藤
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2020/03/10
  • メディア: 文庫

 元々は講談社ブルーバックス版だったのがちくま学芸文庫になったとか。単行本が文庫本化されるのは良くありますが新書から文庫になるのは珍しいと思う。ORことオペレーションズ・リサーチの入門本なのですが、冒頭と巻末に定義と歴史の説明が少しあるだけどほとんどが活用法、しかも数式まで登場するからちくま学芸文庫とは言え専門的過ぎませんかね?と思ったのはブルーバックスだったなら納得。

 私などには実践編よりも歴史や定義の方が面白かった。レーダーと言う技術先行型のシステムが導入されてそれを現場でどう運用すれば良いのか?と言うところからスタートしてそのOR的な手法が様々な分野に応用されると言う。ゴールを設定してそこに到達する為の最適な方法を科学的に検討して提案するのがORであるとされています。提案する為のツールなのでトップである意思決定者本人がOR的な検討をするのではなくそのスタッフである幕僚が進言する為に事前に検討する作業なのだそう、ならば鳩山元総理がOR的なアプローチをする訳にはいかなかったか。

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隷属への道 [読書感想文]

 2008年刊行のハイエク全集新装版うちの一冊を読み直す。

隷属への道 ハイエク全集 I-別巻 【新装版】

隷属への道 ハイエク全集 I-別巻 【新装版】

  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2008/12/25
  • メディア: 単行本

 とてもスラスラと読む事が出来る内容ではない上に仕事の繁忙期に入ってしまい半年近くダラダラと読む羽目に、その間にロシアのウクライナ侵攻が始まってしまったりで本書の内容が古くなる事は無いね。1940年から44年と言う第二次世界大戦のさなかに書かれた本人曰くパンフレットです。古典的な自由主義を良しとするハイエクが昨今の計画主義の蔓延は良くないですねと警鐘を鳴らしていますが2022年になっても状況が全然変わっていないのが何とも言えない。

 ハイエクの言う自由主義は競争を前提とした機会が平等に与えらえる状態なのですが、それでは富が競争の勝者に偏在して不平等であると考える皆さまは計画して公平に分配すれば真に平等な社会になると主張します。昨今のGAFA見るとそうかもと思ってしまいますが、その分配の計画を誰が立てるか?と言うのが問題です。行き過ぎた市場経済に反対して分配を求める人は自分がその計画の立案者になると言う前提で話しているのが問題。岸田総理大臣なら役職でそうでしょうけど、今風に言うと覇権主義国家の独裁者が計画の立案者にならないと言う保証も無いので。

 高学歴のインテリほど集産主義(社会主義・共産主義・ファシズムなどのハイエクによる総称)が自由主義よりも優れていると思いがちなのは富の偏在を悪い事と考える全くの善意からのものでしょう、でも自分が計画の決定者になると言う前提ありきの話なのだな。本書の時代ではバーナード・ショウやらHG・ウェルズ等今日でも名が知られたインテリの名前が計画の信奉者として登場します。当時すでにヒトラーやスターリンは悪い人と言う認識だったようですが、彼らも生まれついての極悪人ではなく計画や決定を下す責任者としての地位や立場が結果悪人となる事を強要しただけだろう。

 集産主義者の引用が多い本書ですがハイエクの主張寄りの引用では若き日のピーター・ドラッカーが登場するのが胸熱展開です、ハイエク同様オーストリア出身で英米に出国していたドラッカーも30年代に「『経済人』の終わり」と言う本を出しているからそこからの引用です。戦後に書かれたそれこそナチスと同根かも知れない連中の書いたナチス批判本よりもリアルタイム批判本でこれは面白いから隷属への道を読む人なら併せて読むべきかな。

「経済人」の終わり―全体主義はなぜ生まれたか

「経済人」の終わり―全体主義はなぜ生まれたか

  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2022/05/02
  • メディア: 単行本

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太陽の季節 [読書感想文]


太陽の季節 (新潮文庫)

太陽の季節 (新潮文庫)

  • 作者: 慎太郎, 石原
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/04/14
  • メディア: 文庫

 2月1日に石原慎太郎氏が亡くなってどれ一丁読んでみるかと6日に注文したら在庫が無かったのですよ。ところが20日に発送メールが届いてどうやら急遽増刷された令和4年2月20日第72刷が届いた次第。昭和30年当時の問題作も70年近く経つと話題性が無くなるのだな、しかし筆者の死により私の様に手に取って見ようと考えた人がいない事も無かったのだなと。

 さて表題作を含めて5本の短編小説を収録してあります。太陽の季節を含め前半部3本はもう酒と女と暴力ばっかりで。登場人物は1本目と3本目が大学生で2本目は高校生、いずれも附属あがりのボンボン揃いで全然共感できる要素が無い。銀座で酒を飲んで喧嘩するは移動は親の車だしヨットを持っていたりもする、昭和30年当時の大学進学率などヒトケタ%でしょうけど更にその中でも金を持ってそうな連中ばっかり。

 本書を読むと当時の大学生はゴブリンかオークか?と言う位に凶暴です、しかし以前読んだ「軍国昭和 東京庶民の楽しみ」でも六大学野球の試合後に銀座に繰り出して喧嘩をする戦前の大学生の乱暴狼藉が紹介されていて昔はそんなものだったか。同じ本で上野公園の花見客も中には酔って喧嘩をするのが目的な人がいたかの様な報道もあったので昔の日本人は血の気があると言うか現代人はかなり大人しくなっているのだなと。

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日本語とタミル語 [読書感想文]

 40年前の現在進行形。

日本語とタミル語

日本語とタミル語

  • 作者: 大野晋
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/11/26
  • メディア: 単行本

 仕事でインド人、それも南方ドラヴィダ系タミル州出身の人達と付き合いがあります。彼らは大体日本語が達者でほとんどの人が日本語の読み書きが出来るのでコミュニケーションも容易。何故タミルの人が日本語が上手なのか?と言う疑問にハッキリと答えて貰った事はありませんが実に理由は簡単、タミル語は文法がほぼ日本語と同じなので単語だけ覚えれば日本語がすぐ話す事が出来るようになるんだとか。

 実際にそんな日本語学校がチェンナイにあってそこを主宰するインド人からSNSの友達申請があったりもする、その学校の卒業生に相談したら「私がいるから彼とのつながりは必要ない」とか言われてしまいましたが。じゃあ逆に日本人がタミル語を勉強するのも簡単か?と言うと発音が全然違うので難しいと思う、日本語に無い音を多用するので。近現代に誕生した物の名称に関しては英語の単語をそのまま使っているケースが多いので、タミル人同士が話すのを脇で聞いていると英語とタミル語のチャンポンで会話しているように聞こえます。

 そんな風にタミル語に慣れ親しんでいるところ古本屋で見つけた一冊、40年前の本ですが日本語とタミル語を比較している。しかし40年前と言えばやれ「キリストは日本に来ていた」だの「日本人の祖先はユダヤ人」だののトンデモ本が跋扈していた時代でして、書評を見たら本書も何かそんな扱い。40年前ならインド南部に生息する謎のタミル族だったかもしれませんが今は江戸川区葛西などに大勢暮らしているから謎も何も無い。本書冒頭で奇祭であるかのように紹介されているポンガルも区の施設を借りてタミル州出身インド人が毎年東京でも開催しています。

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貞観政要 全訳注 [読書感想文]

 ボリュームがあり過ぎて却って読みやすい。

貞観政要 全訳注 (講談社学術文庫)

貞観政要 全訳注 (講談社学術文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/01/12
  • メディア: Kindle版

 貞観政要は以前より興味があり、最初に本書あとがきで訳者の石見清裕氏が読みやすい本として挙げている守屋洋氏訳の徳間書店版(今はちくま学芸文庫)を買い求め(買っただけ)ました。それではいかんと一念発起して山本七平氏がビジネス本と言う体裁で抜き書きした「帝王学」を最後まで読み且つ数回読み返しました。

貞観政要 (ちくま学芸文庫)

貞観政要 (ちくま学芸文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2018/01/26
  • メディア: Kindle版
帝王学 「貞観政要」の読み方 (日経ビジネス人文庫)

帝王学 「貞観政要」の読み方 (日経ビジネス人文庫)

  • 作者: 山本 七平
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版
  • 発売日: 2001/03/01
  • メディア: 文庫

 しかし抜粋ではなくどうせなら全文を読んでみたいと前々から思っていたところ今年の初めに講談社学術文庫から新訳版が出たと知り買い求めた次第。因みに初版は1月8日で私が買い求めたのは2月1日の第2刷でしたのでやはり世間の注目度も高かったのだろうと思う。とは言ってもあとがき入れて全772ページで値段は文庫本のくせに2310円もします、厚みや値段については講談社学術文庫やちくま学芸文庫を買い慣れてくれば麻痺してきますしそう言う感覚が麻痺した人向けなのですがそれにしても売れているのだなと。

 本書の体裁は、タイトルごとに先ず解説が入りその後かなりざっくりした現代語訳が続いて最後に漢文の白文が続くスタイルです。その前の冒頭に30ページばかり「はじめに」と題して大唐帝国成立の流れと太宗が玄武門の変と言うクーデターで権力を掌握した流れを解説してあり、それと主な登場人物と唐の官僚組織の構成と役職名を紹介して、最後に太宗亡き後に貞観政要が編纂されたであろう理由についての石見氏なりの考察が述べられています。役職名と言えば山本七平氏版でも載っていた「美人」の話、その美人が官職名だったとは知りませんでした。

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図説 享徳の乱 [読書感想文]

 人気のムック本スタイル、でもA5サイズ

図説 享徳の乱

図説 享徳の乱

  • 作者: 黒田基樹
  • 出版社/メーカー: 戎光祥出版
  • 発売日: 2021/03/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 「享徳の乱」とは今時ネットで調べたらすぐわかりますが、足利成氏(あしかかしげうじ)が上杉憲忠を謀殺した後28年間関東地方で続いた戦乱。その28年間足利成氏が一貫して享徳年間の元号を使い続けたので享徳の乱と呼ばれる、本当は享徳~康正~寛正~文明と変わっていたそう。それぞれの役職が鎌倉公方と関東管領て何だ?と言うのは上司と部下らしい。上司が部下を殺すなぞ戦国時代初期だけに普通だよねと言う成氏の思惑に対して幕府の8代将軍義政が案外怒ってしまい、討伐軍に「天子御旗」やら「武家御旗」を与えて完全に賊軍扱いになると言う。

 著者の黒田基樹氏は先日読んだ「葛西城とその周辺」でのパネリストの一人で、その本でも第一人者と紹介されていた方です。権威っぷりの割に若い人で驚きますが本書は本当に良く調べたなと感心するばかりです、関東地方の話ですが室町幕府の足利将軍も関係するので資料の収集は大変だと思う。手紙や過去帳等の文献に加えて古戦場や城址等へのフィールドワークの成果を発表するにも本書のようなムック形式は実に良いです。歴史ムック本と言うと歴史雑誌の別冊でA4判が定番ですがこちらはA5判なので携行に便利かもしれない。

 冒頭でいきなり「分倍河原で激戦」と来るので関東在住民としてはずっこけるやら楽しいやら、ムック本ですから関連施設として高幡不動の写真も載っているし。本書の体裁上最初から順に読まずともパラパラと2~4ページにまとめられた項目を拾い読みしても良いかなとは思います、但し私のようにそもそも享徳の乱とは何ぞや?な人は最初から順に読むのがお勧め。左ページの上部に年号が載っているのでそれを確認しつつ冒頭4ページにわたる当時の関東地方の地図で位置を確認しながら読み進めましょう、何せ地名は基本当時の物なので場所の把握を怠ると何だかわからなくなるのと、当時の人たちは思った以上に機動力があり北関東にいたと思ったら神奈川に移動したりもするので。

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葛西城とその周辺 [読書感想文]

 関宿城博物館の売店でゲット、すると「葛飾区郷土と天文の博物館」でやっていたらしい地域史フォーラムをテキストに起こして出版した本だった。

葛西城とその周辺―葛飾区郷土と天文の博物館地域史フォーラム

葛西城とその周辺―葛飾区郷土と天文の博物館地域史フォーラム

  • 出版社/メーカー: たけしま出版
  • 発売日: 2021/05/22
  • メディア: 単行本

 因みに地域史フォーラムの4回目が葛西城だったそうで特別区の博物館学芸員の方もこんなに濃いテーマで開催するとか凄いよなあ。と思ったけれども先日行った大田区の郷土博物館でも出土した土器への考察が熱かったので何処の学芸員さんもこれ位の勉強会は出来るのだろう。郷土と天文の博物館は展示内容を入れ替えてしまいましたが以前は葛西城に関する展示がとても充実していたのでこう言ったフォーラムの研究発表がフィードバックされていたのだろうな。

 葛西城なるものは葛飾区青戸の環七と水戸街道が交差する場所からやや南に存在していたそうです、現在も環七を挟んで東西に城址公園と城跡の碑が立っているので見に行かねば。その環七建設の際に城址部分の中央部を潰してしまう前の昭和47年に発掘調査が行われた際の出土品は郷土と天文の博物館で見たかな。葛西と聞くと葛飾区の南に位置する江戸川区のこれまた南端のイメージですが、巻末の文章を読むに文字通り葛飾の西部と言う事でならば千葉県の松戸市は葛東ですと言われるとなるほどと納得してしまう。実際の地名は東葛なのでなんで東西で言い方変えるんですかね。

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論語と算盤 [読書感想文]

 渋沢栄一の論語講義をいつ果てるともない調子でダラダラと読んでいるのですが、そこに来て今年の大河ドラマ「青天を衝け」の主人公が渋沢栄一なので昔読んだ論語と算盤の方も引っ張り出して読み返してみた次第。論語と算盤は今年はブームと言う事で色々な出版社が色々な版を出していると思いますが角川ソフィア文庫版は現代仮名遣いと当用漢字に修正した上でビジネス本風に章ごとの見出しを追加しています。

論語と算盤 (角川ソフィア文庫)

論語と算盤 (角川ソフィア文庫)

  • 作者: 渋沢 栄一
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2008/10/24
  • メディア: 文庫
論語講義 (1) (講談社学術文庫 (186))

論語講義 (1) (講談社学術文庫 (186))

  • 作者: 渋沢 栄一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/04/29
  • メディア: 文庫

 因みに論語講義は渋沢栄一が論語の講義をすると言うよりは論語をマクラに幕末明治の元勲やら志士の思い出話を語ると言う態で面白いからお勧めです。講談社学術文庫ですので現代仮名遣いや当用漢字と言う配慮は一切無い上に返り点を振った白文が出てくるので読む練習をするのも楽しいですよ。

 論語と算盤の方は書き下ろしたとか口述筆記とかではなく方々での訓話をまとめて昭和2年に刊行された本だそう。言うなればビジネス本自己啓発本の類です、今でも池上彰や大前研一辺りなら雑誌の連載や講演をまとめた本が出ていますがそんな感じ。ですので昭憲皇太后の歌の引用が続いたりするのは仕方ない。大河ドラマの方はこの論語と算盤からネタを拾っていて、先日修験者を栄一が言い負かす話を放送しましたがアレは論語と算盤。なので二宮尊徳の件で西郷隆盛と問答する話もやるかもな?とか思いつつ読み進めるのも楽しい。

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のらぼう菜: 太茎・多収のコツ [読書感想文]

 何だこのムック本は!?

のらぼう菜: 太茎・多収のコツ

のらぼう菜: 太茎・多収のコツ

  • 作者: 高橋孝次(高ははしごだか)
  • 出版社/メーカー: 農山漁村文化協会
  • 発売日: 2020/09/30
  • メディア: 単行本

 3月14日日曜日の朝に普段通りTVKの「神奈川旬菜ナビ」を見ていたら普段と違う調子で番組が始まり、本書の紹介と共に著者の 高橋孝次氏が昨年亡くなったので今回は追悼番組としてのらぼう菜を紹介しますみたいな調子で進行して何かと。本書が昨年秋に上梓されたのでその直後だったのかなと、思わずその場で注文した次第。のらぼう菜が売られているのは何度か見た事はありましたがまさか単行本になっていたとは知りませんでした。

 ムック本とは言え高齢の今までに執筆経験の無さそうな農家の方に丸投げして大丈夫?と言うのは実は複数執筆者で何となくフォローしている。いや高橋氏は高校卒業して教員免許を取得するも家庭の事情で家業の農業を継いだ方で、その後ものらぼう菜で地域の学校で授業をしたりと全くの素人では無いです。と言うか版元の農村文化協会と言うのは「現代農業」と言う雑誌を出版しているところじゃないか。現代農業は出版不況の只中で頑張ってるなと常々感じています。

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フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔 [読書感想文]

 新刊本で新聞広告の大量出稿に負けてついつい買ってしまった。

フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔 (講談社現代新書)

フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔 (講談社現代新書)

  • 作者: 高橋昌一郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/02/17
  • メディア: Kindle版

 しかしまあ、これはとんでもなく面白い一冊です。あとがきを読むと書き下ろしではなくて雑誌の連載をまとめたんだそう。著者の高橋昌一郎氏は理数系と言うよりも文系大学な國學院大學の教授なのですが本書では皆名前だけは知っているフォン・ノイマンについて研究そのものを追うではなく周辺を辿る形で伝記を成立させています。確かに、新書の読者に「不完全性定理」の数式やら解法を解説されても困るし。

 真面目に伝記にするとどうしても数理に足を踏み込みざるを得ないのを、その辺りは文系脳でも読んで概要を理解できるレベルのテキストの羅列にとどめているのが本当に良いです、これ詳しく解説されてもついて行けないし本書を読んで数学に目覚める文系の人もいないだろう。ですので大学は社会科の代わりに数学で受験した私にもご無沙汰な数学の話で四苦八苦と言うよりも脳が活性化されて気持ち良い。

 フォン・ノイマンの伝記を書くには同世代のハンガリー出身な天才たちについても触れざるを得ない流れが昔読んだヨーゼフ・シュンペーターの伝記に登場するオーストリア学派の経済学者たちに通じる物を感じます。オーストリア・ハンガリー帝国の当時の教育システムは天才を抑えつけて凡人に仕立て上げる平等教育ではなく伸ばす教育の余地があったのだなと、お陰でノイマンは10歳そこそこで大学院レベルの数学教育を受けていたとか。

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