安倍晋三 回顧録 [読書感想文]
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- ショップ: 楽天ブックス
- 価格: 1,980 円
2月発売でしたがAmazonでは電子書籍しか扱いが無かったので楽天で注文したら届くまで1月近くかかったと言う。しかし2月3月は忙しくて読書どころではなかったからそれで良かった、都心の大型書店に行けば平積みされていたのだろうなと想像していました。出て早々読んだ方々が新聞のコラムや自身のブログで内容を採り上げていて、曰く財務省への強い不信感ですとかアベノミクスと言われたリフレ政策に対する批判などは何度か目にはしていました。
ご存じの通り昨年7月に手製の銃で撃たれて亡くなったと言う事で出版のタイミングとしては故人を美化するのか死人に口なしで叩くのかにならないようにインタビューをそのままテキストに起こしたと言う態を取っています。ですので同じ話が何度も出るのは仕方ない、それで財務省批判は何回も出てくる話になってしまっている。勢いあまって「森友学園問題は財務省の仕掛けた安倍おろしではないかと疑っている」まで聞き出したのはお手柄なのかもしれない。その派生なのか「ザイム真理教」なる本まで出ましたし。この話は日経のコラムとか経済系ネット記事で追従派と財務省擁護派がそれぞれ主張をしていて楽しい。
湯道 [読書感想文]
二週連続で雨の日曜日、スラムダンクの映画を観に行ったのですよ。昨年末公開の映画でしたが児童生徒の鑑賞料金を500円にした効果か劇場は小学生の大群とその引率係な親で満ちていました。それが騒がしいと言う事も無く皆映画に没入していてこちらもしっかり楽しむ事が出来ました。上映終了後に売店を覗くと「湯道」のパンフレットが売っていてそうだしまった、スラムダンクじゃなくてこちらを観るべきだったろう。とりあえずパンフレットだけ確保して一旦帰宅。
では平日夕方の仕事帰りにでも観に行くかと思い調べたらもう朝の部しかないですね。2月末に上映開始でスラムダンクほど当たっている映画でもないので仕方ないか、それでも頑張って探し続けるとららぽーと横浜ならば18時20分の回があった。火曜日はランニングをしたので翌水曜日に予約したらTOHOシネマズの割引日だったようで1,200円でした、スラムダンクは1,900円だったのに。
ららぽーと横浜と言えばJR横浜線の鴨居駅前ですが原付で行った方が早いので17時半目途に出かけるつもり。しかし水曜夕方の南関東は大気の状態が不安定で出がけに雨雲レーダーを見たらまさに鴨居駅上空に雨雲が頑張っています。職場を出たら雨がポツポツ降っているし中原街道大渋滞だし、港北区に入ったら本降りになってしまい混雑した歴博通りを急ぐもまさかの1時間以上かかってしまった。これは予告だけではなく本編冒頭も観れないかな。
モモ [読書感想文]
タイパ関連の報道を受けて。
MXのバラいろダンディを見ていたら鈴木涼美さんがタイムパフォーマンスをミヒャエル・エンデの「モモ」で紐解いていたので興味を持って読んでみた次第。岩波少年文庫と言えば、デュマのダルタニャン物語から濡れ場部分をゴッソリ削除して無理やり児童文学に仕立てた三銃士とか、そんなイメージですが本書は削ったとしても400ページ超えているので気にせず読んで良いのかなと。
タイパ=モモと言うのはかなりメジャーなアプローチなようです。しかし、そもそもモモを読んだことが無い私には良いきっかけが出来たかな?と思いました。こんなに古典の大ベストセラーでも私のように読んだ事が無い人はいるので。エンデの「ジム・ボタンの機関車大旅行」は子供の頃に読みましたがアニメ版とタイトル以外共通点が皆無で衝撃を受けた思い出。
タイパの象徴とも言える映画をスマホで倍速視聴する意味がそもそも理解できないので。今年亡くなったゴダール監督の作品なんてストーリーだけ追うとほとんど飛ばして観てしまうと思う。それで稼いだ時間をSNSで炎上したりさせられたり、或いは罵倒の応酬に費やしているならば正しく灰色の男たちに時間を奪われて不機嫌に忙しくしている人達と同じだわ。
「経済人」の終わり [読書感想文]
副題は「全体主義はなぜ生まれたか」実はドラッカーの処女作
ノーベル経済学賞受賞者のハイエクが著した「隷属への道」でも紹介されていた逸品です。ドラッカーは1909年生まれでナチスが政権を取った1933年に本書の執筆を開始して正式にと出版されたのは1939年だそうです。優秀な人は若い頃から本当に優秀。ドラッカーと言えばもしドラもといマネジメントですが、むしろドラッカーと言えばな上田惇生氏翻訳のダイヤモンド社版なので2000年頃のドラッカー本出版ラッシュの波に乗った人なら読みやすい。と言うより隷属の道と違い2ページの見開きに収まるセンテンスの区切りがあるのと注記も巻末ではなく本文中にあるダイヤモンド社のドラッカー本フォーマットがありがたい。
1939年と言えば第二次世界大戦が始まる年ですが、33年にナチス政権が誕生してから戦争勅発までの期間渡米したドラッカー青年がドイツのナチス党やイタリアのファシスト党を観察して分析していた内容がコレ。安直に戦争犯罪やホロコーストを取り上げて批判する内容ではない、執筆当時はどちらもやらかしてないか。全体主義を近代の失敗として資本主義や共産主義の唯物論に大衆が絶望して誕生したと位置付けしています。
はじめてのオペレーションズ・リサーチ [読書感想文]
鳩山由紀夫元総理が大学院で研究していたと言うアレ。
元々は講談社ブルーバックス版だったのがちくま学芸文庫になったとか。単行本が文庫本化されるのは良くありますが新書から文庫になるのは珍しいと思う。ORことオペレーションズ・リサーチの入門本なのですが、冒頭と巻末に定義と歴史の説明が少しあるだけどほとんどが活用法、しかも数式まで登場するからちくま学芸文庫とは言え専門的過ぎませんかね?と思ったのはブルーバックスだったなら納得。
私などには実践編よりも歴史や定義の方が面白かった。レーダーと言う技術先行型のシステムが導入されてそれを現場でどう運用すれば良いのか?と言うところからスタートしてそのOR的な手法が様々な分野に応用されると言う。ゴールを設定してそこに到達する為の最適な方法を科学的に検討して提案するのがORであるとされています。提案する為のツールなのでトップである意思決定者本人がOR的な検討をするのではなくそのスタッフである幕僚が進言する為に事前に検討する作業なのだそう、ならば鳩山元総理がOR的なアプローチをする訳にはいかなかったか。
隷属への道 [読書感想文]
2008年刊行のハイエク全集新装版うちの一冊を読み直す。
とてもスラスラと読む事が出来る内容ではない上に仕事の繁忙期に入ってしまい半年近くダラダラと読む羽目に、その間にロシアのウクライナ侵攻が始まってしまったりで本書の内容が古くなる事は無いね。1940年から44年と言う第二次世界大戦のさなかに書かれた本人曰くパンフレットです。古典的な自由主義を良しとするハイエクが昨今の計画主義の蔓延は良くないですねと警鐘を鳴らしていますが2022年になっても状況が全然変わっていないのが何とも言えない。
ハイエクの言う自由主義は競争を前提とした機会が平等に与えらえる状態なのですが、それでは富が競争の勝者に偏在して不平等であると考える皆さまは計画して公平に分配すれば真に平等な社会になると主張します。昨今のGAFA見るとそうかもと思ってしまいますが、その分配の計画を誰が立てるか?と言うのが問題です。行き過ぎた市場経済に反対して分配を求める人は自分がその計画の立案者になると言う前提で話しているのが問題。岸田総理大臣なら役職でそうでしょうけど、今風に言うと覇権主義国家の独裁者が計画の立案者にならないと言う保証も無いので。
高学歴のインテリほど集産主義(社会主義・共産主義・ファシズムなどのハイエクによる総称)が自由主義よりも優れていると思いがちなのは富の偏在を悪い事と考える全くの善意からのものでしょう、でも自分が計画の決定者になると言う前提ありきの話なのだな。本書の時代ではバーナード・ショウやらHG・ウェルズ等今日でも名が知られたインテリの名前が計画の信奉者として登場します。当時すでにヒトラーやスターリンは悪い人と言う認識だったようですが、彼らも生まれついての極悪人ではなく計画や決定を下す責任者としての地位や立場が結果悪人となる事を強要しただけだろう。
集産主義者の引用が多い本書ですがハイエクの主張寄りの引用では若き日のピーター・ドラッカーが登場するのが胸熱展開です、ハイエク同様オーストリア出身で英米に出国していたドラッカーも30年代に「『経済人』の終わり」と言う本を出しているからそこからの引用です。戦後に書かれたそれこそナチスと同根かも知れない連中の書いたナチス批判本よりもリアルタイム批判本でこれは面白いから隷属への道を読む人なら併せて読むべきかな。
太陽の季節 [読書感想文]
2月1日に石原慎太郎氏が亡くなってどれ一丁読んでみるかと6日に注文したら在庫が無かったのですよ。ところが20日に発送メールが届いてどうやら急遽増刷された令和4年2月20日第72刷が届いた次第。昭和30年当時の問題作も70年近く経つと話題性が無くなるのだな、しかし筆者の死により私の様に手に取って見ようと考えた人がいない事も無かったのだなと。
さて表題作を含めて5本の短編小説を収録してあります。太陽の季節を含め前半部3本はもう酒と女と暴力ばっかりで。登場人物は1本目と3本目が大学生で2本目は高校生、いずれも附属あがりのボンボン揃いで全然共感できる要素が無い。銀座で酒を飲んで喧嘩するは移動は親の車だしヨットを持っていたりもする、昭和30年当時の大学進学率などヒトケタ%でしょうけど更にその中でも金を持ってそうな連中ばっかり。
本書を読むと当時の大学生はゴブリンかオークか?と言う位に凶暴です、しかし以前読んだ「軍国昭和 東京庶民の楽しみ」でも六大学野球の試合後に銀座に繰り出して喧嘩をする戦前の大学生の乱暴狼藉が紹介されていて昔はそんなものだったか。同じ本で上野公園の花見客も中には酔って喧嘩をするのが目的な人がいたかの様な報道もあったので昔の日本人は血の気があると言うか現代人はかなり大人しくなっているのだなと。
日本語とタミル語 [読書感想文]
40年前の現在進行形。
仕事でインド人、それも南方ドラヴィダ系タミル州出身の人達と付き合いがあります。彼らは大体日本語が達者でほとんどの人が日本語の読み書きが出来るのでコミュニケーションも容易。何故タミルの人が日本語が上手なのか?と言う疑問にハッキリと答えて貰った事はありませんが実に理由は簡単、タミル語は文法がほぼ日本語と同じなので単語だけ覚えれば日本語がすぐ話す事が出来るようになるんだとか。
実際にそんな日本語学校がチェンナイにあってそこを主宰するインド人からSNSの友達申請があったりもする、その学校の卒業生に相談したら「私がいるから彼とのつながりは必要ない」とか言われてしまいましたが。じゃあ逆に日本人がタミル語を勉強するのも簡単か?と言うと発音が全然違うので難しいと思う、日本語に無い音を多用するので。近現代に誕生した物の名称に関しては英語の単語をそのまま使っているケースが多いので、タミル人同士が話すのを脇で聞いていると英語とタミル語のチャンポンで会話しているように聞こえます。
そんな風にタミル語に慣れ親しんでいるところ古本屋で見つけた一冊、40年前の本ですが日本語とタミル語を比較している。しかし40年前と言えばやれ「キリストは日本に来ていた」だの「日本人の祖先はユダヤ人」だののトンデモ本が跋扈していた時代でして、書評を見たら本書も何かそんな扱い。40年前ならインド南部に生息する謎のタミル族だったかもしれませんが今は江戸川区葛西などに大勢暮らしているから謎も何も無い。本書冒頭で奇祭であるかのように紹介されているポンガルも区の施設を借りてタミル州出身インド人が毎年東京でも開催しています。
貞観政要 全訳注 [読書感想文]
ボリュームがあり過ぎて却って読みやすい。
貞観政要は以前より興味があり、最初に本書あとがきで訳者の石見清裕氏が読みやすい本として挙げている守屋洋氏訳の徳間書店版(今はちくま学芸文庫)を買い求め(買っただけ)ました。それではいかんと一念発起して山本七平氏がビジネス本と言う体裁で抜き書きした「帝王学」を最後まで読み且つ数回読み返しました。
しかし抜粋ではなくどうせなら全文を読んでみたいと前々から思っていたところ今年の初めに講談社学術文庫から新訳版が出たと知り買い求めた次第。因みに初版は1月8日で私が買い求めたのは2月1日の第2刷でしたのでやはり世間の注目度も高かったのだろうと思う。とは言ってもあとがき入れて全772ページで値段は文庫本のくせに2310円もします、厚みや値段については講談社学術文庫やちくま学芸文庫を買い慣れてくれば麻痺してきますしそう言う感覚が麻痺した人向けなのですがそれにしても売れているのだなと。
本書の体裁は、タイトルごとに先ず解説が入りその後かなりざっくりした現代語訳が続いて最後に漢文の白文が続くスタイルです。その前の冒頭に30ページばかり「はじめに」と題して大唐帝国成立の流れと太宗が玄武門の変と言うクーデターで権力を掌握した流れを解説してあり、それと主な登場人物と唐の官僚組織の構成と役職名を紹介して、最後に太宗亡き後に貞観政要が編纂されたであろう理由についての石見氏なりの考察が述べられています。役職名と言えば山本七平氏版でも載っていた「美人」の話、その美人が官職名だったとは知りませんでした。
図説 享徳の乱 [読書感想文]
人気のムック本スタイル、でもA5サイズ
「享徳の乱」とは今時ネットで調べたらすぐわかりますが、足利成氏(あしかかしげうじ)が上杉憲忠を謀殺した後28年間関東地方で続いた戦乱。その28年間足利成氏が一貫して享徳年間の元号を使い続けたので享徳の乱と呼ばれる、本当は享徳~康正~寛正~文明と変わっていたそう。それぞれの役職が鎌倉公方と関東管領て何だ?と言うのは上司と部下らしい。上司が部下を殺すなぞ戦国時代初期だけに普通だよねと言う成氏の思惑に対して幕府の8代将軍義政が案外怒ってしまい、討伐軍に「天子御旗」やら「武家御旗」を与えて完全に賊軍扱いになると言う。
著者の黒田基樹氏は先日読んだ「葛西城とその周辺」でのパネリストの一人で、その本でも第一人者と紹介されていた方です。権威っぷりの割に若い人で驚きますが本書は本当に良く調べたなと感心するばかりです、関東地方の話ですが室町幕府の足利将軍も関係するので資料の収集は大変だと思う。手紙や過去帳等の文献に加えて古戦場や城址等へのフィールドワークの成果を発表するにも本書のようなムック形式は実に良いです。歴史ムック本と言うと歴史雑誌の別冊でA4判が定番ですがこちらはA5判なので携行に便利かもしれない。
冒頭でいきなり「分倍河原で激戦」と来るので関東在住民としてはずっこけるやら楽しいやら、ムック本ですから関連施設として高幡不動の写真も載っているし。本書の体裁上最初から順に読まずともパラパラと2~4ページにまとめられた項目を拾い読みしても良いかなとは思います、但し私のようにそもそも享徳の乱とは何ぞや?な人は最初から順に読むのがお勧め。左ページの上部に年号が載っているのでそれを確認しつつ冒頭4ページにわたる当時の関東地方の地図で位置を確認しながら読み進めましょう、何せ地名は基本当時の物なので場所の把握を怠ると何だかわからなくなるのと、当時の人たちは思った以上に機動力があり北関東にいたと思ったら神奈川に移動したりもするので。