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長崎丸山遊廓 江戸時代のワンダーランド [読書感想文]


長崎丸山遊廓 江戸時代のワンダーランド (講談社現代新書)

長崎丸山遊廓 江戸時代のワンダーランド (講談社現代新書)

  • 作者: 赤瀬 浩
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/08/18
  • メディア: 新書

 レビューを見て面白そうだと思い注文。しかしそもそも遊郭の研究本は1冊も読んだ事が無かった。それで何故興味を持ったか?と言うのは、世間一般での遊女イメージである売り飛ばされただの悲惨な境遇と言うのと異なるのが長崎の丸山遊郭だったと言う著者の主張が面白そうだったから。その点についてはレビュアーから著者の見解であると指摘もありましたが私は遊郭について何も知らないので。

 そんな私の様な人間向けに1章を割いて遊郭とは何か?と言う解説まで載せてくれています、遊郭と言えばやはり吉原なので遊女に売られて年季が明けるまでのフローがわかる。売られたと言う建前なので現代水商売で言う所の「時給の子」みたいな勤務形態かと思いきや、ほとんど個人事業主である「売上の子」扱いで衣装は自前で部屋は賃料払って営業しているとは知らなかった。置屋の食事はお茶漬け程度だからお客にご馳走を取らせて一緒に飲食しないと栄養失調になりそうだとか。年季が明けて故郷に戻れずとも使える人物なら遣り手として遊女屋で暮らし続ける事が出来ますが、その場合は無給なのでチップやキックバックで暮らすしかないと言うのも厳しい。


 長崎丸山の遊女も同じく貧困層の娘が親に売られる建前なのに何故吉原の様に遊郭に幽閉されず遊女たちは外へ自由に出入りをするのか?と言うのを2章以降で解析しています。その為には先ず長崎と言う町の特殊性を解説しなければならないらしく、農業が盛んでもなく現在の小学校の校区にも満たないと言う面積の長崎の町の特異性から話が始まります。つまりは産業と言っても貿易位しかない長崎では貿易の利益を町民全体に分配する制度が出来ており、その為に「竈」と呼ばれる必ずしも血縁関係でもない独特な世帯が出来上がったとありますがその解説が冒頭と巻末に分かれていて思い起こすのが大変。

 冒頭の吉原で代表される遊郭のシステムを前提に長崎丸山町の特異性が解説されます。つまり外国貿易で唐人やオランダ人が得た莫大な利益を長崎の町の還元するシステムが丸山遊郭だった、と言うのが著者の見立て。売られたと言っても基本長崎出身者なので丸山遊女は地域との結びつきが強い、吉原の様に外界から隔離されているでもなく頻繁に実家へ里帰りしている。商売柄男性客との性交で妊娠するリスクはあるのですが丸山遊女の場合は出産して育児をするケースがまれではない。シーボルトの娘であるオランダお稲で有名な外国人とのハーフも特段珍しくもなく普通に暮らしていたとかなんとか。

 長崎と言う特殊な立地の事情として、元々の住民は全員キリシタン(と言い切る調子なのが著者の見解と呼ばれる所以なのかなとも思った、ほとんど位の言い方で良いような)なので、その対策で博多から女郎屋を呼んで花街を開設させたと言うキリシタン弾圧が根本にあるとか。貿易港ゆえ客も唐人やオランダ人が中心、今日の様に日帰り出張できず長逗留せざるを得ない偉人に貿易で得た莫大な利益を長崎の町に還元させるため遊郭で外国人に散財させる仕組みが丸山遊女なんだとか。

 それを記録を頼りに唐人やオランダ人が丸山遊女に渡したプレゼントのリスト(砂糖が百キロ単位で貰っているのが凄い)や遊女がカピタンに充てた手紙、鎖国ならではの外国人との交流に規制がかかる中で結果として罪を問われる事になった彼女たちの罪状も長崎ならでは。それでも町全体が遊女に対して内輪意識を持っていると言う見立てはなるほどなと。

 面白いのは当時の遊郭ガイドが紹介されていて、現代の夕刊紙や実話雑誌の風俗リポート漫画みたいなのは江戸時代からあったのだなと変に感心しました。長崎の空気が臭いだの丸山遊女も本心では日本の男に抱かれたいだの、日本人読者向けの本だからでしょうけど適当だなと。


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