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「経済人」の終わり [読書感想文]

 副題は「全体主義はなぜ生まれたか」実はドラッカーの処女作

「経済人」の終わり―全体主義はなぜ生まれたか

「経済人」の終わり―全体主義はなぜ生まれたか

  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2022/06/14
  • メディア: 単行本

 ノーベル経済学賞受賞者のハイエクが著した「隷属への道」でも紹介されていた逸品です。ドラッカーは1909年生まれでナチスが政権を取った1933年に本書の執筆を開始して正式にと出版されたのは1939年だそうです。優秀な人は若い頃から本当に優秀。ドラッカーと言えばもしドラもといマネジメントですが、むしろドラッカーと言えばな上田惇生氏翻訳のダイヤモンド社版なので2000年頃のドラッカー本出版ラッシュの波に乗った人なら読みやすい。と言うより隷属の道と違い2ページの見開きに収まるセンテンスの区切りがあるのと注記も巻末ではなく本文中にあるダイヤモンド社のドラッカー本フォーマットがありがたい。

 1939年と言えば第二次世界大戦が始まる年ですが、33年にナチス政権が誕生してから戦争勅発までの期間渡米したドラッカー青年がドイツのナチス党やイタリアのファシスト党を観察して分析していた内容がコレ。安直に戦争犯罪やホロコーストを取り上げて批判する内容ではない、執筆当時はどちらもやらかしてないか。全体主義を近代の失敗として資本主義や共産主義の唯物論に大衆が絶望して誕生したと位置付けしています。

 全体主義の特徴に「反対しかしない、建設的な対案を持たない」とあり、政権与党との対決姿勢を強調したい万年野党がまさしくそんな感じだよなと読んでいて思う。そして「矛盾している」と言うのも日本にも革命を目指す割に憲法9条がどうこうと護憲を謳う団体もゴロゴロいるなと。そんな皆様を全体主義者だと決めつけるのはあまりにも短絡的なのですが、そっち方向に何時転んでもおかしくない危険性を当人たちは全く自覚していないのが恐ろしい。

 そんな矛盾した主張をする日本国内にも存在する批判勢力とファシズムの違いは軍国主義、ただし軍国主義化すれば失業者がいない完全雇用が実現するそう。しかし戦争準備をする上に組織を維持し続ける為に常に敵の存在を必要とするので、いずれは戦争を始めるしかないと言う見立て通りにこの本が出た年に世界大戦が始まっている。

 ナチスと言えばなユダヤ人弾圧については、当時のドイツではブルジョア階級がほぼユダヤ人に占められていたので反ブルジョアと言う意味合いで反ユダヤと言っているに過ぎないと分析。つまりは階級闘争史観の皆様は潜在的にナチス的志向を持っているのか。ユダヤ人差別は将来的にはエスカレートするしかないと言うドラッカーの予想通りにこの後なるのですが、当時ドラッカーが話を聞いた当のナチス党員すら本気にしてなかったのに結局そこまで突っ走ってしまうのか。

 全体主義と言うのは独裁者の独裁政権の様であって実は大衆の支持無しに成立しない。ではホロコーストは当時のドイツ有権者の意思なのか?と言うと全体主義国家での独裁政権への不信感はとても強いそう。しかし、信じられないものを信じると言う全体主義国家への国民の支持故にそういう結論にもなり得るのか。それほどまでに近代への絶望がベースにあるとしています。そして(1939年から見た)未来を、独ソ戦に期待する声が大きいが無いだろうと言う予想は一旦的中してその後外れている。全体主義国家と実質全体主義国家が潰し合うのが西欧にとっての理想だった筈がヨーロッパ戦争になりましたからね。

 最後に、現在進行形のロシアによるウクライナ侵略を本書に基づいて紐解いてみるに、別にロシア国民は西側の経済システムから脱落もしていなかったし絶望もしていなかったように見えたのでロシアが全体主義国家と言う事にはならないでしょうね。一般に言われている通り覇権主義的なリーダーが独断で始めたようにみえます。しかし、西側企業の取引停止で消費財の自国生産を始めざるを得ない様子はドラッカーの言う非効率な「代替品経済」そのものかな。ロシアは資源国なので禁輸は効果が低そうですけどね、資源の無い日本も本土爆撃が始まるまでは耐えていた位だし。


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