はじめてのオペレーションズ・リサーチ [読書感想文]
鳩山由紀夫元総理が大学院で研究していたと言うアレ。
元々は講談社ブルーバックス版だったのがちくま学芸文庫になったとか。単行本が文庫本化されるのは良くありますが新書から文庫になるのは珍しいと思う。ORことオペレーションズ・リサーチの入門本なのですが、冒頭と巻末に定義と歴史の説明が少しあるだけどほとんどが活用法、しかも数式まで登場するからちくま学芸文庫とは言え専門的過ぎませんかね?と思ったのはブルーバックスだったなら納得。
私などには実践編よりも歴史や定義の方が面白かった。レーダーと言う技術先行型のシステムが導入されてそれを現場でどう運用すれば良いのか?と言うところからスタートしてそのOR的な手法が様々な分野に応用されると言う。ゴールを設定してそこに到達する為の最適な方法を科学的に検討して提案するのがORであるとされています。提案する為のツールなのでトップである意思決定者本人がOR的な検討をするのではなくそのスタッフである幕僚が進言する為に事前に検討する作業なのだそう、ならば鳩山元総理がOR的なアプローチをする訳にはいかなかったか。
ちなみにORはオペレーションズ・リサーチだったか?それともオペレーショナル・リサーチだったか?と言う私の疑問にはOR発祥の地イギリスではオペレーショナル・リサーチだったのがアメリカに渡ってからオペレーションズ・リサーチと言う呼称になったそうで、つまりはどちらも正解。著者は元陸上自衛隊勤務だったと言う経歴ゆえか、実践編は攻撃力の異なる2両の戦車を待ち伏せ攻撃する際に味方の生存確率を考えてどちらから攻撃を開始してかつどちらに攻撃を集中すべきか?と言う一般人にはピンと来ない例題で終始します。
その2両の戦車を2発の砲弾を発射して攻撃する方法を1発で破壊するケースと2発で破壊するケースに破壊出来なかったケースにそれぞれの条件で反撃されて生き残るケースをそれぞれの確立を推定して最適な順序はどれか?と言うのを検討するそうです。分析するには数値化が必要なので実際の戦闘を数値にしてそれぞれの場合分けについての確からしさを検討するそう。
単なる数字遊びではなく役立つ有意な情報にする為にサンプルデータをひたすら収集するしかないけれども、例えば乱数表を使っても似たようなデータ収集が可能ですのでコンピュータで大量のサンプルデータを作り出してシミュレーションも出来ます。ただしそれは実戦のデータに代替するのかそれとも単なる近似値に過ぎないのではないか?と言う疑念を持って実戦のデータに戻る事も必要。ORとはあくまでも現場志向でなければならないそう。
数値や計算式に現実を当てはめようとするORワーカーはORバカと斬って捨てています。それじゃ分析にならないでしょうけど、そんな呼称があると言う事はそう言う人もいるのでしょう。本書の例では海軍艦艇が神風特攻隊の攻撃を防ぐ方法や敵戦車を破壊しつつ味方の生存確率を上げると言うかなり具体的な話ばかりですから、成果を伴わない理論じゃ役に立たないどころか有害ですね。
冒頭にも書いた鳩山元首相が率いた旧民主党及びその後継政党はOR的な分析ともおよそ無縁だったのが面白い。本書で言う所のベテランや権威がデータの収集や分析に興味が無く「こうなっているに間違いない」と思い込んでいた風。予算委員会での執拗なモリカケ追及などはアレで政党支持率が上がる筈と思い込んでいたのでしょうけど、今更で構わないので是非当時の方針についてOR的な分析をして欲しいですわ。
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