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貞観政要 全訳注 [読書感想文]

 ボリュームがあり過ぎて却って読みやすい。

貞観政要 全訳注 (講談社学術文庫)

貞観政要 全訳注 (講談社学術文庫)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/01/12
  • メディア: Kindle版

 貞観政要は以前より興味があり、最初に本書あとがきで訳者の石見清裕氏が読みやすい本として挙げている守屋洋氏訳の徳間書店版(今はちくま学芸文庫)を買い求め(買っただけ)ました。それではいかんと一念発起して山本七平氏がビジネス本と言う体裁で抜き書きした「帝王学」を最後まで読み且つ数回読み返しました。

貞観政要 (ちくま学芸文庫)

貞観政要 (ちくま学芸文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2018/01/26
  • メディア: Kindle版
帝王学 「貞観政要」の読み方 (日経ビジネス人文庫)

帝王学 「貞観政要」の読み方 (日経ビジネス人文庫)

  • 作者: 山本 七平
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版
  • 発売日: 2001/03/01
  • メディア: 文庫

 しかし抜粋ではなくどうせなら全文を読んでみたいと前々から思っていたところ今年の初めに講談社学術文庫から新訳版が出たと知り買い求めた次第。因みに初版は1月8日で私が買い求めたのは2月1日の第2刷でしたのでやはり世間の注目度も高かったのだろうと思う。とは言ってもあとがき入れて全772ページで値段は文庫本のくせに2310円もします、厚みや値段については講談社学術文庫やちくま学芸文庫を買い慣れてくれば麻痺してきますしそう言う感覚が麻痺した人向けなのですがそれにしても売れているのだなと。

 本書の体裁は、タイトルごとに先ず解説が入りその後かなりざっくりした現代語訳が続いて最後に漢文の白文が続くスタイルです。その前の冒頭に30ページばかり「はじめに」と題して大唐帝国成立の流れと太宗が玄武門の変と言うクーデターで権力を掌握した流れを解説してあり、それと主な登場人物と唐の官僚組織の構成と役職名を紹介して、最後に太宗亡き後に貞観政要が編纂されたであろう理由についての石見氏なりの考察が述べられています。役職名と言えば山本七平氏版でも載っていた「美人」の話、その美人が官職名だったとは知りませんでした。


 その解説部分が凄くて、本文中の諫議大夫の上奏なぞは大体当時の古典からの引用の塊なのですがそれぞれの原典を全て解説していて感心します。そもそも本文についても日本に現存する写本が一番原典には近いのではないか?と考えを示しつつも一般に定本とされる物を翻訳しましたとか奇をてらわないのも良い。日本ではビジネス本の掴みでお馴染みな北条政子や徳川家康も愛読した、とある通りに平安時代には伝わっていたのでより大陸版よりも原典に近い内容なのでは?との事。

 そのビジネス本につまみ食いされた貞観政要観についても石見氏は批判的でして、太宗の治世を正当化する内容に編纂されていないか?と穿った見解を開陳しています。と言うよりも本文中でも玄武門の変で兄弟を殺して皇帝になった太宗が自分の行為を正当化しようとしていたりあるいは自分の行状がどう記録されているか知りたがったり、初代皇太子の李承乾の悪行を変に強調してみたり。また時系列で見ると太宗自身が散々悪く言った前王朝随の煬帝へ徐々に似てしまっている事を何度も指摘していて、それを繰り返し目にするのもこの厚い本の良さかもしれない。

 異民族についての解説がやたらと詳しくて、当時のモンゴル地域に暮らしていた突厥はトルコ人だったとか、ウズベキスタンのサマルカンドやウイグル自治区も登場。「規諫太子」で突厥かぶれになった皇太子を悪しき例とする割に「安辺」では太宗自身が突厥に変に肩入れして諌められているのも可笑しい。なお太宗よりも後の玄宗時代の安史の乱まで解説があり、首謀者の安禄山はソグド人と突厥の混血だったとかでつまりはペルシャ人とトルコ人のハーフだったのか。漢字の名前では皆漢民族かと錯覚しますが当時の国際色豊かな大陸事情まで理解が進みます。

 本文は皆知ってる創業と守成のどちらが難しいか?や君主は舟で民衆は水、なんてのは冒頭部に出てきます。後はひたすら太宗と諌議大夫達が暁や舜ら三皇・五帝を手本に、或いは殷の紂王や隋の煬帝を反面教師に理想の君主像を延々と語るので確かに全文ではなく抜粋でも良いかなと思う。易経が教養なだけに迷信は否定しつつも占星術的な運命論はアリと言うのが現代人に理解し辛いかも。「征伐」以降の末尾部分がビジネス本であまり目にしない部分だから興味深いかな、何処かは忘れましたが常勝ゆえに滅びるとか指導者はいい加減でもダメだが完璧を求め過ぎるのも良くないとか。引用してビジネスで使うとなると孫引きになる部分がほとんどですが、似た問答が延々と続く本書は嫌でも内容が頭に入るのは優れています。


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