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フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔 [読書感想文]

 新刊本で新聞広告の大量出稿に負けてついつい買ってしまった。

フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔 (講談社現代新書)

フォン・ノイマンの哲学 人間のフリをした悪魔 (講談社現代新書)

  • 作者: 高橋昌一郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2021/02/17
  • メディア: Kindle版

 しかしまあ、これはとんでもなく面白い一冊です。あとがきを読むと書き下ろしではなくて雑誌の連載をまとめたんだそう。著者の高橋昌一郎氏は理数系と言うよりも文系大学な國學院大學の教授なのですが本書では皆名前だけは知っているフォン・ノイマンについて研究そのものを追うではなく周辺を辿る形で伝記を成立させています。確かに、新書の読者に「不完全性定理」の数式やら解法を解説されても困るし。

 真面目に伝記にするとどうしても数理に足を踏み込みざるを得ないのを、その辺りは文系脳でも読んで概要を理解できるレベルのテキストの羅列にとどめているのが本当に良いです、これ詳しく解説されてもついて行けないし本書を読んで数学に目覚める文系の人もいないだろう。ですので大学は社会科の代わりに数学で受験した私にもご無沙汰な数学の話で四苦八苦と言うよりも脳が活性化されて気持ち良い。

 フォン・ノイマンの伝記を書くには同世代のハンガリー出身な天才たちについても触れざるを得ない流れが昔読んだヨーゼフ・シュンペーターの伝記に登場するオーストリア学派の経済学者たちに通じる物を感じます。オーストリア・ハンガリー帝国の当時の教育システムは天才を抑えつけて凡人に仕立て上げる平等教育ではなく伸ばす教育の余地があったのだなと、お陰でノイマンは10歳そこそこで大学院レベルの数学教育を受けていたとか。


 オーストリア・ハンガリーの天才達はドイツ、それもワイマール共和国時代のボロボロなドイツに集積してそんなドイツに何の魅力が有ったのか?と言うとダダイズムだのバウハウス運動だのと夜の町ではキャバレーの流行とそれなりに楽しかったらしい。ナチスの台頭によりドイツからのユダヤ系天才の流出が一気に進んでそれがそのまま米国に流入する流れなのですが、ブタペストやベルリンならばカフェやキャバレーがあったのが当時のアメリカはそんな欧州と比べるとド田舎だったのだなとしみじみ。

 天才フォン・ノイマンもアメリカ移民として士官学校を志したりもします、アメリカ移住後はプリンストン高等研究所をベースにして幾つもの研究機関をハシゴしているのが頭のデキが違う人は凄いなと言う感じで、1日を睡眠4時間と残20時間は楽しい事である思索に使うと言うのがリアルに天才。登場人物がほぼ大学や研究所の教授ばかりの本ですがフォン・ノイマンの天才っぷりは超越していて、日常会話の中で定理の証明をしてしまうとか普通じゃない。

 研究所の同僚がアインシュタインだったりするのですが、静かな環境を好むアインシュタインに対して雑踏の中で理論をまとめたりもするノイマンは音を流したりだったそう。本書の登場人物でそれほど天才に振っていないのがノイマンの2名の奥様なのですが、双方ノイマン家でのパーティではホステスとして活躍しているんだなと。

 副題の「人間のフリをした悪魔」と言うのはノイマンの現実に対する捉え方やアプローチの仕方であってそんな悪い言われようなのはスタンリー・キューブリック監督の「博士の異常な愛情」に登場するストレンジラブ博士のモデルとなったとか、冷戦時に旧ソ連への先制攻撃を強く進言したからではないかなと。それもノイマンがそう思い至るきっかけではないかな?と言うまるでスパイ小説の様なエピソードも紹介してあり、著者の推測ではあるけれどもなるほどなと言う流れです。

博士の異常な愛情 [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
  • 発売日: 2010/04/16
  • メディア: Blu-ray

 原子爆弾の開発については中心的な役割を果たしたチームの一員でも無いのですがキーマンと言う感じ。東京への投下は思いとどまるよう進言したのはその後のポツダム宣言受諾と言ったプロセスまで考慮していたとかでブレーンは確かに残しておかないと降伏はしないのかなと。

 それと並行して今日のコンピュータの基礎を考え出したりゲーム理論を考え出して経済学に落とし込んでサミュエルソンを感嘆させたりと本当にやり散らかしているなと。コンピュータについてはハードそのものは英国のチューリングの方が完成させたのは早かったようですが、汎用機としてのコンピュータとしてはやはりフォン・ノイマン型じゃないかな。スマホ登場直前にPDAと言う似て非なるハンドヘルドコンピュータが有りましたが、チューリングの解読器はそのレベルでコンピュータとは違う気がする。

 冒頭に書いた通り、フォン・ノイマンの功績の1つ1つについての具体的な供述は皆無なのですが人間離れした天才っぷりは良くわかります。現代日本人としてはこのような天才の卵を潰さずに伸ばして育てる方策を考えて実践していかないと、このまま沈んでしまうと言う危機感を持つきっかけにはなる一冊です。



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