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太陽の季節 [読書感想文]


太陽の季節 (新潮文庫)

太陽の季節 (新潮文庫)

  • 作者: 慎太郎, 石原
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/04/14
  • メディア: 文庫

 2月1日に石原慎太郎氏が亡くなってどれ一丁読んでみるかと6日に注文したら在庫が無かったのですよ。ところが20日に発送メールが届いてどうやら急遽増刷された令和4年2月20日第72刷が届いた次第。昭和30年当時の問題作も70年近く経つと話題性が無くなるのだな、しかし筆者の死により私の様に手に取って見ようと考えた人がいない事も無かったのだなと。

 さて表題作を含めて5本の短編小説を収録してあります。太陽の季節を含め前半部3本はもう酒と女と暴力ばっかりで。登場人物は1本目と3本目が大学生で2本目は高校生、いずれも附属あがりのボンボン揃いで全然共感できる要素が無い。銀座で酒を飲んで喧嘩するは移動は親の車だしヨットを持っていたりもする、昭和30年当時の大学進学率などヒトケタ%でしょうけど更にその中でも金を持ってそうな連中ばっかり。

 本書を読むと当時の大学生はゴブリンかオークか?と言う位に凶暴です、しかし以前読んだ「軍国昭和 東京庶民の楽しみ」でも六大学野球の試合後に銀座に繰り出して喧嘩をする戦前の大学生の乱暴狼藉が紹介されていて昔はそんなものだったか。同じ本で上野公園の花見客も中には酔って喧嘩をするのが目的な人がいたかの様な報道もあったので昔の日本人は血の気があると言うか現代人はかなり大人しくなっているのだなと。


 ただし、昭和30年の大学生ライフが昭和の末期に大学生だった自分の経験を思い起こしても見聞きしたり身に覚えのある話ばかりで共感は出来ない上格好良さも皆無ですけれども身につまされる。200人規模の会場借りてパーティ券千枚売り捌く話とか、女子大生を酔わせて強姦するとか、怖い物知らずなのに上下関係はやたらと厳しくて先輩への挨拶の態度が悪かっただけで人相が変わるまで殴られるとか。何か「友達の友達」経由で当時聞いたような話も多くて思わず当時から語り継がれていた都市伝説だったのか?とか思ったり。

 私の経験でも今と違い飲酒OKだった学園祭で、チャラいテニスサークルの模擬店に某体育会がシメに来るとか言うので夕方前に閉めて居酒屋に移動していたのは見かけたかな。男だけで飲みに繰り出したは良いが全員の所持金合わせても幾らも無くてどうしようか?と思案する情けない様子は身に覚えがあります。女給がいる店と言うのはキャバレーかな?昔は大衆的な値段の店も多かったそうですが本書の登場人物は大体親のすねかじりなので銀座の店も余裕でしょうけど。

 無軌道な学生連中はK学園と言う事になっているのは慶應でもモデルにしているのだろうか?授業態度や麻雀の話などは私が附属上がりの友人知人から聞いた話のままだから実体験と言うよりはそれなりに取材と言うか見聞きした話を膨らませて読み物として面白く創作しているのは流石芥川賞作家なのだな。拳銃を持った大学生も嘘くさいと言うよりは戦前の華族やら財閥の一族なら家の中に一丁位はあったかもしれないね。

 そんな大学生物に食傷気味になった後は「ヨットと少年」と言う旧海軍士官の家と言っても裕福ではない家庭の高校生が主人公な上に氏の趣味全開なヨットの話でボンボンの話に食傷気味になったいたからこれは良いなと思ったら後半にかけてまたもや暴力と性描写とギャンブルな展開になってしまいます。こうなるとご本人が書きたかったと言うよりも担当が付いてこういう路線にした方が読者受けが良いとか指導したのか?と勘ぐってしまう。

 しかし最後の「黒い水」は本当に短編ですが氏の経験と書きたい事を読者を無視して書いたのではないかなと言う話で5つの短編の中で一番面白いと思う。登場人物は清水を目指すレースに参加したヨットに乗った3名だけで、日中の凪いだ伊豆半島をジリジリと進む所から後半の嵐の駿河湾への展開が素晴らしい。目の前で雷に撃たれて消えたヨットを見た男とそれに気付かず船室で眠り込んでしまう男にクライマックスで爆発する生に対する執着と勝利が5作品中唯一のスカっとする終わり方でヨットに乗る人なら最後のコレだけ読むとしても元は取れると思うよ。


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