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日本語とタミル語 [読書感想文]

 40年前の現在進行形。

日本語とタミル語

日本語とタミル語

  • 作者: 大野晋
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/11/26
  • メディア: 単行本

 仕事でインド人、それも南方ドラヴィダ系タミル州出身の人達と付き合いがあります。彼らは大体日本語が達者でほとんどの人が日本語の読み書きが出来るのでコミュニケーションも容易。何故タミルの人が日本語が上手なのか?と言う疑問にハッキリと答えて貰った事はありませんが実に理由は簡単、タミル語は文法がほぼ日本語と同じなので単語だけ覚えれば日本語がすぐ話す事が出来るようになるんだとか。

 実際にそんな日本語学校がチェンナイにあってそこを主宰するインド人からSNSの友達申請があったりもする、その学校の卒業生に相談したら「私がいるから彼とのつながりは必要ない」とか言われてしまいましたが。じゃあ逆に日本人がタミル語を勉強するのも簡単か?と言うと発音が全然違うので難しいと思う、日本語に無い音を多用するので。近現代に誕生した物の名称に関しては英語の単語をそのまま使っているケースが多いので、タミル人同士が話すのを脇で聞いていると英語とタミル語のチャンポンで会話しているように聞こえます。

 そんな風にタミル語に慣れ親しんでいるところ古本屋で見つけた一冊、40年前の本ですが日本語とタミル語を比較している。しかし40年前と言えばやれ「キリストは日本に来ていた」だの「日本人の祖先はユダヤ人」だののトンデモ本が跋扈していた時代でして、書評を見たら本書も何かそんな扱い。40年前ならインド南部に生息する謎のタミル族だったかもしれませんが今は江戸川区葛西などに大勢暮らしているから謎も何も無い。本書冒頭で奇祭であるかのように紹介されているポンガルも区の施設を借りてタミル州出身インド人が毎年東京でも開催しています。


 それよりも南インドの日本語学校がメソッド化している日本語とタミル語の文法上の類似性と言うよりも同一性を解析するのが本書か?と思ったらそうではない、ひたすら日本語の古語とタミル語の単語を比較して「類似性がある」と言うばかりで拍子抜け。あとがきで「外語大のタミル語教師にこんな比較は意味が無いと批判された」と憤っておられますが私の実体験でも音として聞くタミル語は日本語と全然似ていないからその通りじゃないかな。しかも「現在は単語の比較をしているがこれから文法の比較もしてみたい」とかあり、それを期待して入手した本なのに。

 40年前の本なのでその後大野先生が文法の比較をしたか?と言うのは調べればわかるのかね。本書以前からも雑誌に日本語とタミル語の比較に関する投稿はされていたのが本書を読むと見て取れるので、40年後に当時の中間発表だけ読まされてもな。とにかく「比較言語学とは単語と単語を比較して類似性を探す学問」と頑なので、そりゃ文法の比較に思い及ばないだろう。日本語の古語の文例にやたらと万葉集が出てくるので、むしろタミル語よりも万葉集に興味が出てくる始末。

 残念ながら本書はタミル語の理解にはあまり役立たない気がする、むしろチェンナイの日本語学校で聞いてきた方が良いかもしれない。しかし、自らの説が批判に晒される中で「学問するとは何か?」と問題提起していてそちらはえらく面白い。日本では学問は真似する事だが、ヨーロッパでは直覚に従い選び出し集める事であるとか。それ故ヨーロッパでの批判は研究に参与する仕方であるのに対して、日本では共に研究するのではなく単にケチを付ける方法であるとお怒りのご様子。

 その直覚を持たずヨーロッパの文献を鵜呑みにして模倣する事が学問だと思っている日本の学者が多いともお嘆きです。40年前なら所謂「出羽守」が「欧米では、それと比べて日本は」と己の博識を開陳してから嘆いてみせる勝利の方程式がまだ健在な頃でしたので大変だったろう。後に大ベストセラーとなる「日本語練習帳」上梓まではなお18年を要するので、時系列からすると過去ですが大野先生の苦闘はまだまだ続くのですね。いや、タミル語何処行っちゃったんだろうか?

日本語練習帳 (岩波新書)

日本語練習帳 (岩波新書)

  • 作者: 大野 晋
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2014/12/18
  • メディア: Kindle版


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