SSブログ

フードバリューチェーンが変える日本農業 [読書感想文]

 全ての農業関係者に捧げる福音の書。

フードバリューチェーンが変える日本農業

フードバリューチェーンが変える日本農業

  • 作者: 大泉 一貫
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版
  • 発売日: 2020/03/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 「希望の日本農業論」から6年、前作が農政批判調だったのが今回は一転して肯定的な捉え方をしているのは第二次安倍政権下の掲げるアベノミクス「攻めの農業」で有識者として迎え入れられてご自身の主張が農政に反映されているからかなと。前作に引き続き農業経営アドバイザー試験の指定副読本なので受験を考えている人は読むしかないのですが、冒頭に書いたとおりの福音書と言う体裁になっており試験に関係無く農業の未来は暗いと思い込んでいる方は是非読んで欲しい一冊。

 前著での「農業の失われた20年」で農業人口も生産性も低下したのがアベノミクスの「攻めの農業」で反転攻勢が始まってボチボチ結果が出ているよ、と言うお話です。失われた20年間で農業人口が大幅減少しましたが、これは保護農政により生き永らえていた零細(販売額0円の農家を含む)な兼業農家の離農が進んだ結果であり逆に攻めの農業に転ずるために必要な調整であったと肯定的に捉えています。


 規制の撤廃で残った大規模農家が本書で言う「農業経営者」となり数百ヘクタール規模の農地を利用して年商数億円を超える例も珍しくはないとして実例を挙げて説明しています。兼業農家などの小規模農家でもやる気と経営手法如何では大規模な農業経営者となった例も実例を挙げて紹介しています。更に離農した元農家についてもサラリーマンとしての豊かな収入を持つ農村生活者として農村になくてはならない存在としています。本書で言う名望家を目指す大規模農家をひがむ必要はなく、また離農者が引け目を感じる必要もないと言う全方位に目配りをしている内容です。

 農業経営者になるには?と言うような話の部分はビジネス本などを読んでいればお馴染みな単語や数値やグラフが並んでいて、逆に保護農政下で経営から遠ざけられていた農業従事者にはこう言うのが新鮮なのかあるいは難しい概念に思えるのか?農業経営アドバイザー自体そもそもブルーオーシャンなのかもしれないねとも思います、農家の方で本書の内容に興味を持ってもカタカナ語の羅列が難しく感じた人は古本屋の100円コーナーに並んでいるビジネス本に手を出しても良いんじゃないかなと思いました。

 成功例も10数例具体的に企業名を挙げて読者が「これなら自分でも出来るんじゃないか?」と言うヒントになるような構成になっています。いきなり農業経営者ではなく先ずは契約農家になって大規模農家と取引をする事によってノウハウを学んでから農業経営者を目指してみては?などと参入のヒントも手取り足取り例示しています。しかし、経営ですんで契約した量と納期をどう守るか?と言う問題も触れていて、思う事は契約した量を超えて収穫した場合の販路を確保しておくとか、収穫量が契約高に満たない場合は購入してでも用意しなければならないのか。それが面倒に感じるか不安に感じる向きは二の足を踏むかもしれない、むしろ兼業農家として民間企業の勤務経験がある農家の方が農業経営者に打って出るマインドがあるかもしれない。

 最後のICT化については農家向けと言うよりもソフトのベンダーに対して農業用アプリは競合他社が少ない今こそ参入のチャンスですと呼びかけている内容。農家向けにはこんなアプリを使ってこんな事も出来ると言う事例が挙げてありますが、昔読んだ「そうだ、葉っぱを売ろう!」と言う四国の山村からツマモノを出荷する実話で防災無線を使って市場の傾向を放送したなんて話を思い出します。ICT云々と言うよりもそもそも市場経済の仕組みを理解して相場観を持っていれば自ずと使い方もわかるような。


nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。