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峠 [読書感想文]


峠 上・中・下巻セット (新潮文庫)

峠 上・中・下巻セット (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー:
  • 発売日: 2020/07/28
  • メディア: 文庫

 コロナの自粛効果で未読本が捗る、かれこれ10年位我が家に転がっていたのをやっと読む気になった。今年公開予定の「峠 最後のサムライ」とか言う映画の原作にもなっているとかなのでタイムリーと言う思惑もある、因みに上中下巻全て古本で揃えたら下巻だけ版が古くて活字が小さかった。それだけならば良いのですが、なんと現行版中巻の巻末が旧版下巻の219ページだった、旧版の下巻は」538ページなので現下巻は残り318ページを如何に膨らませているのか?あるいは削ったページがあるのでは?と不安になります。

 河井継之助と言えば戊辰戦争で長岡藩の中立を画策したりあるいは北越戦争で官軍相手に当時日本に3門しか無かったと言うガトリングガンで奮戦した家老と言うイメージです、幕末物の小説やドラマには大体登場するので知名度はそこそこ高いと思う。しかし上巻では大層偏屈で他人と交流しない人物に描かれていて何とも魅力が無い、30歳過ぎて江戸の塾に遊学していても他人の論評をするか遊郭に遊びに行く描写ばかりと言う。

 昭和40年ごろの新聞連載小説だったと巻末の解説に有るので他人の批評ばかりをするクリティカルさも時代の風潮なのかな?とも思うけれども今読むと本当に魅力が無い。塾の課題についても批判ばかりして真面目に取り組もうとしないのが高度成長期末期のこれから新左翼のシラケ世代が世の中心になろうとする時代の空気なんだろうか?どうにも著者の思惑を超えて主人公が独り歩きをしてしまうので上巻の巻末で司馬遼太郎が今はキャラが暴走しているけどこの後は必ず面白くなりますのでご安心ください、とかフォローを入れているのが泣ける。


 中巻になると急に交友関係が広がって来て、と言うよりも上巻では腹の中で批判ばかりしていた様な描写だった場所でも実は出会いがあり交歓もしていたのだとか言う物凄い後出しがあって500ページ以上ある上巻での人付き合いをしない人物像に付き合って来たのに何だよ?と言う。そんなんで横浜の外国人商人だのと実は人脈が広がっていたのだ、と言う書き方はどうなのだろうか?

 その後西へ人に会う旅に行くのが河井の遊学人生の終わりなのですが、また正直誰得な司馬遼太郎の濡れ場描写が幾つかあった末に弟子入りした人物にもやはり失望したと言う例によっての批判調。ところがこれまた後になるとそこで会津藩の秋月悌次郎と親交をむすんでいたのだとかどんだけ後出しなのかなと、と言うより河井継之助よりも秋月悌次郎が幕末の開明派ながら官軍側ではなかった立場として小説の主人公にすればより面白かったんじゃないかな?とも思う。

 その後は突如幕藩体制の枠に収まって、封建の世はもう終わると腹の中では思いつつも唐突に大名と家臣と言う序列の維持に尽力し始めるのでまた読者は置いてきぼりですよ。と言うのを外ならぬ司馬遼太郎自身も思っているのか、福沢諭吉と問答させてみてその心情を吐露させようと試みますが読者サイドとしては読めば読むほど書生時代に全否定していた様な因習に落ち込んでいくのか?と言うのがさっぱり理解出来ない。と言うのが筆者の心境そのものらしく、小説を書いている様で実はなぞ解きをしているかのような司馬遼太郎に付き合わされる羽目になる。

 既にこの時点で千ページ以上読み進めているので、何だかなあと思いつつも読み進むしかない。あとは河井継之助が長岡藩を官軍にも佐幕派にも属さない中立国と言う立場に持っていくために如何にして仕込みを行い、何故それが失敗したか?と言う流れを淡々と読み進めるしかない。まるで坂の上の雲での伊地知幸介的立場に仕立てられあげられた誰かとか奥羽列藩同盟の思惑で北越戦争を始めざるを得ない所へ追い込まれていくという。

 河井継之助が買い揃えた最新式兵器の活躍は緒戦でガトリングガンが少し活躍するばかりで後は斬りこみばっかりだしそもそも戦争の途中で継之助は命を落としてしまいそこで小説も終わってしまうので何だかなあ。一昨年山本周五郎の栄花物語を田沼意次の話と勘違いして読んだらほぼ関係の無い青春残酷物語で挫折してしまった屈辱あるので何とか最後までは読み切りました。

 司馬遼太郎の歴史小説らしく良く調べてあるしフィクションも良い感じで織り交ぜてあるのですが、ちょっと現代の価値観ではあまりに理解が難しい主人公の心情描写はしなくても良かった気がする。長谷川伸の「日本敵討ち異相」も現代人のメンタルからすると理解し辛い仇討を「こういうものです」と特に解説も無く読ませてしまって、却ってその方が読者の腹に落ちたものね。


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