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種の起源 [読書感想文]

 苦節四か月

種の起源(上) (光文社古典新訳文庫)

種の起源(上) (光文社古典新訳文庫)

  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2009/09/20
  • メディア: Kindle版
種の起源〈下〉 (光文社古典新訳文庫)

種の起源〈下〉 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者: チャールズ ダーウィン
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2009/12/20
  • メディア: 文庫

 上下各400ページ以上ある上に古典の翻訳物独特の調子なので1度読んでも内容が頭に入って来ず2回転、すっかり読書は電車の中でするものに成り下がった生活習慣が原因で800ページ2回転には3か月以上かかったという。そこまで難解と言う事は無いのですが、もうすっかり加齢で頭が駄目になってしまったと言う事で。

 かの有名なダーウィンの進化論の本です、の筈なのですが本書には「進化論(evolution)」と言う単語が登場しない。と言うのはダーウィン監修で第六版まで重ねた種の起源の初版本の翻訳だそうな、どうも日本語版の翻訳は判で押したように皆初版本だとか。「進化論」は第六版で改定された際に初めて挿入された言葉でして、同じく有名な「適者生存」と言う言葉も第五版で書き加えられた概念だそうで。すると「ダーウィン・エコノミー」で提起されたアダム・スミスよりもチャールズ・ダーウィンの方が経済学者として優れていると言う話には恐らく初版の本書を読んでもたどり着く事が出来ないのだなとガックリ。

 本書の正しい読み進め方は思うに、先ずは上巻巻末の「本書を読むために」を読んでから上巻の「訳者まえがき」を読んでやっと上巻の本編を読み、下巻は「下巻のための訳者まえがき」を読んでから下巻の本編を読み最後に「解説」を読んで〆に「訳者あとがき」と言う順序が良いかなと。この順序ですとダーウィンの年譜を先ず頭に入れてから本編に入っていく事が出来ます。そして訳者あとがきで翻訳者が学生時代に弱肉強食や優勝劣敗を憎み平和共存を貴ぶ今西進化論と言う思想が当時の文化人間で大流行していた、なんて話を読んで一昔前の日本論壇が創造説が主流だったダーウィンの時代と同じで笑う笑えない。そう言えばソ連崩壊の時に左派の人がダーウィンの進化論だったとやたら言っていたのが今にして思えば今西進化論とやらの負けが明らかになった時だったのだろうか?

 そしてやはり岩波文庫版についてはリスペクトをしつつも読みにくいと切って捨てているのがなるほどなと。これは私の経験でもあるのですが、岩波文庫と言う奴は巻末に「読書子に寄す」なんて一文があるくせに凡そ一般向けと呼べない翻訳物があるのですよね。最初から外国語学習者向けの副読本と言う体裁で翻訳してあり日本語が崩壊していて意味不明なのも中には有ると言う、そりゃ出来たら原書で読んでみたいですがそんな時間もヒマも無いから翻訳本を読むのに殺生なと毎度思います。


 初版の種の起源と言う本は、「進化論」と言う言葉はまだ使っていないものの、旧約聖書の創造説を否定する学説として登場しています。当時既に化石の発掘やら地質学の研究で地球はモーセやアブラハムがいたとされる時代よりもはるか昔から存在していた事が明らかになりつつも、他方でヤハウェ神が6日で創造したと言う旧来の考え方を尊重する向きが本書で言うナチュラリストと言う層でも支配的だった現実をただす事が狙いです。ですので今となっては当たり前な話を論証する為に例示や反証の問答を想定しつつ論考を重ねるのが正直まだるっこしい。

 因みにナチュラリストだけではなく、種はスピーシーズで自然淘汰はナチュラル・セレクションで原文はそうかそうだったのか状態です。初版本に進化論と言う概念はまだ無いので、世代交代を重ねる過程で生育環境に適応してある能力を得たり不要になった能力が退化するを繰り返す中でオリジナルの変種になったり新たな種になったりするのです。その過程で適応に失敗した種は絶滅してしまい、また環境の激変で絶滅する種も登場します。そんな推定を人為的に短期間で変種が誕生する家畜や栽培品種の観察で組み立てて、コンピュータもネットも無い時代でも他のナチュラリストの論文や標本を参考にして組み上げていく過程を見るに、インタラクティブでは無いだけでネット時代と変わらぬ手法だなと。

 しかし原種と新種を結ぶミッシング・リンクの存在が確認できない事と、世界中に分布した同一種の移動メカニズムを推理する事に下巻のかなりの部分を費やしているのが大変そう。ミッシング・リンクについては地層から発見される化石のレアさで見つからないのが当然と説明しているのですが分布問題については読んでいて苦しいなと。当時は現代では主流な大陸移動説が存在していなかったそうで、その存在抜きに分布メカニズムを組み立てるのは今更読んでいて歯がゆい。

 自然淘汰の他に「性淘汰」と言う物も登場、パートナーに選ばれない等の理由で子孫を残す事に失敗した個体の形質が消滅する過程だそうで。つまり種としては繁殖して子孫を残さないと意味が無いと言う事でダーウィンから優生学には繋がらないなと。80年代頃に独身主義だの夫婦共働きで子供のいないDINKS世帯をもてはやす風潮がありましたが、それも性淘汰の考えでいくとただ単に繁殖に失敗しただけじゃないのかね?そう言う風潮に踊らされた層は高学歴だったり高所得者のイメージなのでいよいよ上記の今西進化論じゃねえだろと言う事か。

 とにかく初版ではなく最終版を翻訳して欲しかった。ヒトの祖先はサルなんて一言も書いていないしで本書ほど著者とタイトルは有名でも読んだ人は少ない本も無いんじゃないかな?巻末に進化論のその後が載っていて、メンデルから今日のDNA解析まで進歩してもダーウィンの進化論が持つ優位性は変わらないとあるのは訳者の個人的意見かもしれませんが。考察その論証に例示を上げる進め方は考えるプロセスとして参考になるなと。


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