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水と闘う地域と人々 [読書感想文]

 埼玉県立歴史と民族の博物館の売店で発見、しかし売店は営業終了後だったので後日Amazonにて買い求めた一冊。

水と闘う地域と人々―利根川・中条堤と明治43年大水害

水と闘う地域と人々―利根川・中条堤と明治43年大水害

  • 作者: 松浦 茂樹
  • 出版社/メーカー: 武蔵文化研究会
  • 発売日: 2014/03
  • メディア: 単行本

 この何年か「利根川の東遷」と言う江戸時代の初期に徳川幕府が伊奈忠次に命じて東京湾内に流れ込んでいた利根川の流れを現在の銚子に付け替えた大土木工事について調べる事にはまっています、残念な事に体系的にまとめた一般向けの書籍が無いので利根川流域の郷土博物館を廻ったり少しでも関係のありそうな書籍を買いあさる内に本書も発見。

 しかし本書は明治43年の大洪水を中条堤と言う埼玉県の利根川流域にスポットライトを当てて読み解く一冊でした、明治43年大洪水ですと同じく江戸時代に伊奈忠次が「荒川の西遷」として西に付け替えた荒川の更なる改修である「荒川放水路」整備のきっかけとなった話ね。しかし「千葉県立関宿城博物館」の展示にもあったこの地域の治水と水防対策が良くわかる一冊です。


 本書の視点の面白さは歴史教科書的な水害の記録でもなく土木技術の話でもなく流域住民の利害と対立を中心に話が進んでいくところ、と言うのは、河川と言うのは水が流れている部分の川幅や深さが均等でも無いので増水も場所によって全く異なるからであり、また、堤防も全く同じ規格のものが全流域に整備されていれば良いのですが、現実には予算や資源の問題から高い場所や低い場所があるから。

 そんな話を以前釣り船の船長に聞いた事がありまして、多摩川の河口付近では東京側と川崎側の堤防の高さは明らかに東京が高く本当にいざと言う時には川崎側を遊水池として東京を守るんじゃないの?との事。本書の主役である中条堤も堤防のある部分や遊水池として洪水が起きる前提な地域があり、洪水上等なエリアは水塚を設けてその上に小屋を建てたり洪水時の交通手段として天井裏に舟を吊るして保管したりと言うのも方々の荒川や利根川流域の郷土博物館で見たよな。

 しかし、役割分担としての洪水担当と言うのは面白くない。また自分らが毎度水浸しになる事で下流地域の流域住民の生活が守られると言うのも不公平な話なので、上流域・中流域・下流域の住民の争いが激しくなる。明治43年大洪水後には知事の不信任決議案を出してみたり流域の村長が一斉に辞任してみたり、何せ洪水時に堤防のかさ上げをすると他の流域の人間が来て止めさせる位で一夜にしてかさ上げ工事をしたり3千人で県庁まで抗議に行ったりと激しいわ。

 明治43年大洪水を受けて従前治水は流域の責任と言う建前だったのが、未曽有の大水害の為県の事業でもあり国の事業ともなり下流域の現在の千葉・茨城と共同で改修工事をするとか言う計画が出来上がったり。その際に従前の遊水池としての役割はなくなったとかで、洪水は肥沃な土壌を運んで来て流域では藍の栽培が盛んと言うのはどうなったんでしょうね。

 さて、本書の後半部はその明治43年大洪水の流域ごとの惨状が記録されています。2015年の鬼怒川洪水による茨城県常総市の惨状は記憶に新しいところですが、あれをより悲惨にしたような。と言うより21世紀にもなって堤防の高い低いと言うのは相変わらず有るんだよねと言うのを上述した釣り船の船長じゃなくても思い知った一件でした。消防団ならぬ水防団が徹夜で、或いは不眠不休で堤防を守っていると上流からの洪水が流れて来て村が結局は水没してみたり。水面が下がって助かったと思えば何の事は無い対岸の堤防が決壊しただけだとか、対岸の堤防を崩して地元を守ったが後に裁判で有罪になった者とか。

 千葉県立関宿城博物館に水防工法のあれこれが紹介されていましたがそれらを駆使し続けたら資材が尽きてしまったり、電信と言う当時の通信インフラが破壊されて行政の状況把握が遅れたり。ダムはムダとかスーパー堤防の予算が削られたりと治水が現状上手くいっている状態で慢心していますが水害ニッポンで絶対安全安心が無いのは東日本大震災の津波被害でも改めて思い知ったところであります。

 その後昭和の治水が昭和22年のキャサリン(カスリーン)台風で試される事となり、本書もそう言う視点で描いています。巻末の参考資料に明治43年大洪水とキャサリン台風についての東京の被害が紹介されていて、正直埼玉県の地理が頭に入ってないので東京の話の方がわかりやすかった。23区の東半分が治水上かつてどんな場所だったか?と言うのも良くわかります。


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