SSブログ

社会主義 [読書感想文]

 一旦挫折後半年後に再挑戦したら拍子抜けするほど読みやすかった。2時間ほどで読了、120ページだけど。

社会主義 (講談社学術文庫 511)

社会主義 (講談社学術文庫 511)

  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1980/08/07
  • メディア: 文庫

 最近の自分の行動パターンから鑑みるに国立駅近くの古本屋で買ったのだろうか?購入後1回読もうとしたら理解できず途中で放置していたのですが先日遠方に行く用事があり車中の友として丁度良いかなと再度手に取り読んでみたら拍子抜けするほど読みやすかったと言う。120ページ中4分の3が本文と言うか講演会の記録で残りの4分の1はマックス・ウェーバーの人となりや思想についての解説です。

 正直マックス・ウェーバーの思想についてはほぼ知らないので巻末4分の1を占める本書の訳者でもある濱島朗氏による解説などを読むに現実主義的な考え方をする人で、世の趨勢を鑑みて手段を選ばずややもすれば空想に走りがちな左翼政党に入り内部からの変革を試みたとあってバイタリティは凄い人なんだなと感心します。

 本書は1918年と言う第一次世界大戦末期にこの直後敗戦国側となるオーストリアの将校団に対して、前年1917年のロシア革命で成立したソヴェト政権をにらむかのような「社会主義」と言うお題の講演内容をテキスト化したものです。因みにウェーバー本人はこの後1920年に亡くなるとか。本書も全集から講演部分だけ抜き出して文庫化したのが1980年でして、後になってわかるソヴェト連邦内部でもブレジネフ率いる官僚制の極大化と内部崩壊が始まっていた時期だけに、それぞれの時代背景を思い浮かべつつ読むと面白いです。


 最初に読んだ際には内容が意味不明かつ退屈でほとんど苦痛だった故に脱落したのですが、何故か半年後に読み返したらスラスラと内容は頭に入り読み進める事が出来ました。それもそのはず講演内容が政治思想に関しては専門家とは言えない将校団に対して当時話題の社会主義とは何か?と言うのを解説している話なので分かり辛い筈も無い。

 社会化したら官僚制は無くなるのか?賃労働者は搾取されないのか?と言う社会主義の宣伝文句をあっさりと否定します。職業政治家や官僚が必要ない直接民主制はスイスの地方都市やかつてのアメリカで行われてきたが20世紀にもなってそんな牧歌的な手法が通用する筈無いでしょ、と言うお話。賃労働者は搾取されているか?と言うのも自前の道具類持参で仕事をする労働者と言うのも20世紀当時の産業社会では既に成り立たない。21世紀の今日なら工場や現場がユニット化しているので自弁の道具とかありえないし。

 そこで21世紀ならITを駆使すれば資本家に搾取される事もないと言う反論ならそれは賃労働者じゃなくてホワイトカラーなんじゃない?20世紀初頭の時点でも社会主義が想定する賃労働者と言うよりは訓練されて技能を身に付けたホワイトカラー化するかつての労働者が主流になりつつあると言う指摘。そもそも19世紀的な資本家なるものも株式会社の普及により所有者と経営者が別になっているし20世紀の現実に即していないよと言う指摘。

 今でも岩波文庫で売っているウイリアム・モリスの「ユートピアだより」と言う空想小説を読んだ際に14世紀が理想の社会と言う事になっていて、ヨーロッパの14世紀と言ったら中世の暗黒時代じゃないかと思ったのですがこれは賃労働者が存在しないと言う意味で理想の時代と書いたのかと今更納得。ユートピアだよりは支離滅裂過ぎて22世紀のユートピアと言うよりも意識のある死者に支配されたゾンビランドと化した地上と解釈して読むと辻褄があって面白いです。


ユートピアだより (岩波文庫 白 201-1)

ユートピアだより (岩波文庫 白 201-1)

  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2024/09/16
  • メディア: 文庫

 巻末にボリシェヴィキだカウツキーだトロツキーにメンシェヴィキと言ったかつての左翼用語が解説されていて勉強になります。問題は今更使う相手がもういない事ですけれども。当時もっともホットな話題だったソヴェト革命についても軍隊は官僚機構である将校団を残さないと機能しないから早速革命の趣旨に反しているぞと言うツッコミも。しんぶん赤旗のコラムで「ソヴェトは社会主義国家ではなかった」とか総括していましたが、多分どの時代のどんな民族でも理屈通りの社会主義なんて実装も運用も不可能じゃないかね?

 それでも令和の日本でまだ古典的な社会主義を夢見ている人がいるようで。私見ですが現実を理屈で説明しようとして上手くいかないのが資本主義で、理屈に現実を合わせようとして上手くいかないのが社会主義だと思っています。
nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 1

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。