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呑川のすべて [読書感想文]

 10月頃日経朝刊のコラムに呑川の話が載っていて、何事かと思ったら表題タイトル本の著者が自分の本の宣伝をしているだけだった。しかし地元民なので買ってしまう。

呑川のすべて;東京の忘れられた二級河川の物語

呑川のすべて;東京の忘れられた二級河川の物語

  • 作者: 近藤 祐
  • 出版社/メーカー: 彩流社
  • 発売日: 2019/08/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 昭和33年生まれの著者が3歳の頃大田区久が原に引っ越して来て、その後世田谷区奥沢・同深沢と呑川を遡上する様に転居していった10代の頃と言う人生の最初の4分の1時代を呑川流域で育った著者が人生の最後の4分の1時代にさしかかって再び呑川を訪れると言う体裁。が、本書にも度々登場する「呑川の会」の活動を知って謂れや歴史についての本ではなく個人的な思い出を追想するスタイルに路線変更したという変わった一冊。

 Amazonのレビューに私小説的であると書かれた通りの内容になっています。しかし古地図や書誌に法令をかなり調べているので正攻法での「呑川のすべて」も読んでみたかったなと言うのが正直な感想。確かに呑川の会は自然科学から人文科学まで幅広く調査研究をしている団体でして、私も以前タマゾン川とも言われる棄てられた熱帯魚天国である多摩川から汽水域の海老取川を経由して池上付近の呑川にたどり着いた巨大なアリゲーターガー捕獲記事を読んだ事があるので改めて書くのは書き辛いというのは分かります。

 ただ、誰も知らない2級河川と言う決めつけはどうだろうか?映画「シン・ゴジラ」が呑川(本書によれば新呑川)を遡上した事でそれなりに知名度が上がった気がします。あとがきを読むに執筆期間中に公開があったので触れても良かったと思うのですがね。恐らく何年もかけて少しずつ書き溜めていた様でして呑川が「のみかわ」なのか「のみがわ」なのかに拘っている割には大田区が突如「太田区」表記になっている部分もある。大田区は旧大森区と旧蒲田区が合併して出来た歴史を鑑みれば太田表記はあり得ないのです、その他にもちゃんと校正しているのか?と思う誤植部分も多い一冊、洗足池が日蓮聖人ならぬ弘法大師が足を洗ったと言うのはそう言う文書もあるのかもしれないけれども一般的には日蓮じゃないのかね?


 さて、冒頭呑川は擬似河川であると言うと言う衝撃的な話から始まります。世田谷区日体大付近と大田区の中原街道から東京湾部分以外は暗渠になっているのですが、その暗渠で無い部分(本書では開渠と呼ぶ)に流れているのは呑川の流れではなく新宿落合の水処理センターから引っ張って来た高度処理水なんだそうです。本書にある通り昔は川底にボロ雑巾みたいな藻が生えていたのが無くなって水面に鴨が泳いでいるのはそう言う理由なのか。

 元々縄文海進の頃は呑川は多摩川の一部だったとか本当によく調べているなと、江戸時代には農業用水として重宝していたのを昭和の初めに耕地整理で周辺農地の起伏を削って平らにならしたそうで。今でも起伏が激しいと感じますが昔は更に凄かったのか。そして昭和6年に池上町の住民が蒲田町の堤防を崩した話は以前紹介した「水と闘う地域と人々」での明治30年に起きた利根川中条堤流域住民の一夜堤事件もかくやと言う騒動で地元でもそんな事が起きていたのだなと。やはりそこまで調べたのだから正攻法の一冊が是非読みたかった。

 そのまま暗渠の親水公園を歩いて遡上しつつ支流に寄り道しつつ呑川緑道が国道246にぶつかるあたり、休業中の栗の湯と言う銭湯脇付近まで来て99ページより唐突に下流に向かって進み始める。九品仏浄真寺の池が水源と言うのは誤りと言うところまで文献で割り出しておきつつ結局水源は何処なのか判明していないと言う、それ以上に突如上流を目指していたのが下流を目指しだすので混乱してもう一度読み返してしまったよ。

 親水公園を今度は八雲方向に進んで再び東京工業大学脇の開渠部分から下流を目指し途中で洗足池から道々橋への洗足流れを辿ったりしつつ下流へ。折角の高度処理水もココまで来るとただのどぶ川でして蒲田周辺は確かに水は黒いし臭い。夫婦橋が何故夫婦なのか?と言うと橋が2つ架かっていたからだそうでそれは知らなかった。そして東京湾に流れ込んだ河口で観音政治氏の油絵と出会いそれまでの批判調から一転良い感じに終わると言う。

 いやそれよりも、私は氏よりも若いですが同じ松仙小学校に卒業まで通っていたので久が原時代の話が全然他人事ではない。昭和33年生まれだと新幹線の切り通しが出来る前の貨物線の踏切あった時代の人じゃないかな?私は本書で言う南雪谷方向の人なので微妙に生活圏が異なりますがこの方が住んでいた3丁目方向にもクラスメイトはいたのでウロウロしていたから大体わかるし。奥沢も駅前の自転車屋と言うのも私が良く知っている店なので、こんなにも近所が舞台の本は生まれて初めて読んだので驚き。道々橋から緑ヶ丘までの呑川流域が生活圏だった人は必読の一冊。


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