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江戸から平成まで ロジスティクスの歴史物語 [読書感想文]

 やや同人誌的?

江戸から平成まで ロジスティクスの歴史物語

江戸から平成まで ロジスティクスの歴史物語

  • 作者: 苦瀬 博仁
  • 出版社/メーカー: 白桃書房
  • 発売日: 2016/04/01
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 巻末を見るに著者は物流の世界では有名な方の様です。私は当初河川の治水に興味が有ったのが段々と河川物流にも興味が広がって行った人なので、高瀬舟とか運河の開削とかそう言う本が読みたいなと思い調べたら本書がヒットしたので注文した次第。現代物流の専門家なので河川物流だけではなく陸運や海運についても当然ページを割いています。

 しかし専門家の専門書ではなく物流よもやま話と言う体裁でして、業界紙に連載していたエッセイをまとめた一冊じゃないかな?と言う良くも悪くも軽く読む事が出来る内容。ISBNコードは付いていますが校正が充分ではないので自費出版本みたいな出版形態なのだろうか?読み始めていきなり1620年に徳川家康は、とか書いてあるのでハテ?「家康死んでイロイロ(1616)残る」だから没年は1616年だよな?昨今の歴史は新事実が色々出てくるので没年も変わったかと思いきや1616年のままだから秀忠と言いたかったのか?


 そんな風に導入部でズッコケてしまった。やはり御専門はOR(オペレーションズリサーチ)やらロジスティクスで物流史の方は専門家として研究したと言うよりも波及部分で調べたのかな、江戸時代から日露戦争までの物流の話は太平洋戦争に代表される戦前日本のダメロジスティクスについて一席ぶつ為のマクラなのかなと。江戸時代の物流に関しては章末に出典が記されていますが、ノンフィクションの紀行ものやら街の歴史好き向けムック本なんぞからの引用も多いのがいよいよ専門家と言うよりも歴史好きの一般人風の印象をどうしても読み手に与えます。

 とは言うのは私はシロウトながら河川物流だけはそこそこ勉強しているので物足りなく感じているだけで基本的には物流を平易かつエッセイ集風に解説している一冊なので本書をマクラにまたもうちょっと専門性の高い本を探そうかなと言うきっかけにはなる。徳川家康が江戸に入ってすぐに小名木川を整備したのは行徳の塩田から塩の運送ルートを確保する為だった、とか体裁が簡単なのでそんな風に断言して大丈夫か?とか気にはなりますが。各地の郷土博物館での学芸員さん達の書いたキャプション知識では、小名木川は利根川から江戸川を経由して江戸まで物資を運んだルートとあったので塩の確保の為のルートと言う説は感心してしまった。

 本書でも触れていますが、江戸時代の陸送は駄載や人が担いで運んだので破損率が高い上にそもそもの積載量が少ないのに対して、河川物流は大量の積み荷を傷まず安く高速で運搬する事が出来たので明治期に鉄道輸送が普及するまでは国内物流の王様でした。因みに海運は沿岸を方位磁石も無く目測で進み甲板も無いはしけみたいな船でどうやってたんだ?と前から思っていましたが、本書によると海流のある外海まで出ずに本当に沿岸航海していたとあって感心、それなら海流に逆らう方向にも進む事が出来るよなと。

 海運は私そんなに詳しくないので面白く感じました。関東がサケ・鰹節なのに対して関西がブリ・昆布なのはそれぞれの物流ルートの違いと言うのはなるほど、入手しやすい食材が地域の味になるのだなと。それが明治期になるとそれまでお粗末だった陸運と海運が急速に発展して相対的に河川物流の地位が下がるのは、逆に徳川幕府がどれだけ国内の物流を締め付けて経済活動を停滞させていたのだか?河川物流はそれでも昭和の中期ごろまで機能していたのですけどね。

 そんな、ロジスティクスについてリアルな価値観を持っていた徳川幕府と明治政府だったのが日露戦争の日本海海戦と言う大きな成功体験で躓くと言うのが本書の主題。制海権を握ってロシアのウラジオ艦隊は日本の補給路を叩こうとしていて他方、日本の連合艦隊は海上補給路の維持を目指していたのが日露戦争での海戦だったのに。それが2日間の短期決戦で軍艦同士の艦隊戦で勝敗を決したのがそのままそれ以降の日本軍の戦略になって輜重の軽視に繋がっていったと言う。

 戦闘能力を喪失させる為には補給を絶ってしまえば良いのを変な成功体験が有るものだから戦闘部隊を叩く事に固執し過ぎたのが敗因と言うのは本書以外でも良く言われるところ。そう言うロジスティクス軽視は陸海軍の兵隊よりも輸送船の船員の方が戦死率が倍以上高いと言う数値にもなって表れたとか。そこから締めの現代ロジスティクス論やORの話になって、ここはあまり専門的にやられると素人は辛いのでエッセイ風で良かったかな。ロジスティクスの簡単な歴史本ですが私の様に偏った興味の人間でも勉強になりました。


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