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江戸の風呂 [読書感想文]

 江戸の風呂はやはり汚かった?

江戸の風呂 (新潮選書)

江戸の風呂 (新潮選書)

  • 作者: 今野 信雄
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1989/02
  • メディア: 単行本

 アーネスト・サトウが日本国内を旅行した際に旅館の風呂は時刻が遅くなるとお湯が先客の垢で青緑色になっていて不潔であると書いていた事、シュリーマンが来日した際に疥癬に罹った日本人を大勢見た事、をそれぞれの紀行で読んで日本人自慢の江戸の風呂って実は汚かったんじゃ?と常々思っていたのです。そこを本書では冒頭に江戸の風呂の不潔さを強調していて得心がいった様な逆に腑に落ちない様な。

 と言うのは余りにも断定調なので、著者は江戸関連の著作が多いのですが、だからと言ってまるで見てきたか風呂に入ったかのような調子はどうなんだろうか?昭和の終わりに上梓された一冊でして、昭和の終わりと言えば「朝シャン」なんて言葉が流行り出した時代なのでそんな空気もあるんだろうか?とは言ってもその数年前の昭和50年代ならば女子中高生と言えど洗髪は週に2~3度と言うのも珍しくも無くそれで不潔と言われるでも無かったし。

 不潔と言うのも現代の物差しで見た話であり江戸の庶民は当時としては世界的に見ても清潔だったと思う、会田雄次氏が「敗者の条件」でベルギー人農婦は生涯で3度しか風呂に入らないとか書いていたのも江戸よりも後の時代の話ですし。その3回と言うのは産湯と納棺の結婚の時なので、自分の意志で入浴するのは生涯でただ1度しかないのでどれだけ不潔なんだ。しかし入浴は3度でもシャワーを浴びたり体を絞ったタオルで拭いたりは頻繁にしていたかもしれず、現代人の物差しで額面通りに受け取ると残念な事になるかなと。


 では何が汚かったか?と言うと原因は燃料である薪や水が貴重だったから。当時の薪は高価だったのでそれを集める苦労話が本書では何度も出てきますし、水は江戸の町と言えば上水道だったのでそうジャンジャンとは使えない。風呂屋が自家用の井戸を掘れば良いのだけれども井戸掘りも技術革新されるまでは高コストだったそう。なのでどうしたか?と言うと、浴室の造りが沸かした湯が冷め辛くなっている。と言っても断熱材も無い時代なので熱が逃げる開口部を小さくしただけ、出入口が柘榴口と呼ばれる屈んで入るような低い通路なのと、開口部から熱が逃げない工夫で自然採光の窓が小さいのだとか。

 そんな締め切った様な真っ暗な浴室に明け方から20時頃までお湯を張ってに入ると言う塩梅、これがくすり湯だの運んできた温泉の湯と言う様な付加価値の高い湯だと何日も替えないので更に汚い。現代の銭湯でもくすり湯の浴槽は足したりしないと営業終了前に行くと何ともすえた臭いがする事が時々あります、浴槽外にある排水溝で小便をするのは普通で真っ暗なので湯船で脱糞されてもバレないとか。別の銭湯本では湯船に人糞か死体が浮かぶと営業休止と言うのは載ってたか。

 汚いばかり書きましたが上がり湯には綺麗な湯を桶に汲んでもらうそうなのでご安心を、火事の多い江戸の町なので台風などの大風の日も休みになるんだとか。そんな江戸の湯屋の様子を式亭三馬の「浮世風呂」を孫引きして営業開始から終い湯まで紹介しています、湯船で歌うのは男湯だけで女湯は専らお喋りで、歌も身分で全然違うと言う身分関係無い風呂屋でもやはり身分制度の時代だったのか。それならば原書を読めば良いのでは?と注文したら箱入りの単行本が来てしまったよ、しかも浮世風呂で検索したら作者が同じでタイトルも似ている浮世床も間違えて注文してしまったし。

日本古典文学大系〈第63〉浮世風呂 (1957年)

日本古典文学大系〈第63〉浮世風呂 (1957年)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1957/09/05
  • メディア: 単行本

 江戸の風呂屋の一日どころか365日が良くわかる、冒頭に当時の湯屋の図面が載っているのでそれを頭に浮かべつつ読むとより良いかな。墨田区にある花王の工場内ミュージアムに模型が有るのですが団体専用の施設で要予約だから敷居が高いわ、今の風呂屋は明治時代に生まれた「改良風呂」を更にアップデートした物なので江戸の風呂とはかなり違います。ほぼ江戸時代の風呂屋に絞った内容なのもとても良い、風呂の歴史も最低限度触れています。温泉についても江戸時代の湯治事情が紹介してあり、滞在費用がそれなりに掛かるのだなと。草津温泉なんて冬場は閉める今で言う山小屋みたいな営業期間だったそう、お風呂好きの教養本としては面白い。雄山閣の「入浴・銭湯の歴史」と言う本が有名ですが、あちらを読むなら本書の方がお勧めかな。


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