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ダーウィン・エコノミー 自由、競争、公益 [読書感想文]

 トランプ大統領誕生の秘密。

ダーウィン・エコノミー 自由、競争、公益

ダーウィン・エコノミー 自由、競争、公益

  • 作者: ロバート・H・フランク
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2018/03/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
The Darwin Economy: Liberty, Competition, and the Common Good

The Darwin Economy: Liberty, Competition, and the Common Good

  • 作者: Robert H. Frank
  • 出版社/メーカー: Princeton Univ Pr
  • 発売日: 2012/08/27
  • メディア: ペーパーバック

 「成功する人は偶然を味方にする」に続きフランク教授の本、今年出た本ですが原書は実は2010年頃書かれているので内容的にはちょっと時流に合っていないですね。内容はやっぱりケインズの言う経済学者の仕事は論文ではなくパンフレットを書く事であると言う意見そのままでして、正直、アダム・スミスの「見えざる手」よりもチャールズ・ダーウィンの「個の利益は集団の利益と必ずしも一致しない」の方がより優れていると言う本書のテーマはあくまでもパンフレットのつかみに過ぎないなと。

 確か池田信夫氏の紹介を読んで手に入れたのですが、池田氏は経済学者ダーウィンにいたく反応していた割に本書は別にダーウィンの経済学的な切り口について基礎から紹介すると言う体裁でも何でもない。恐らく「種の起源」を既に読んでいる人ならば色々思うところあるのでしょうけれども、実際池田氏の最近はヒトの本能やら類人猿の社会性にまで考察が及んでいるのでそう言う方には何かの気づきやきっかけにはなったのでしょう。


 しかし本書はパンフレットなので、2010年ごろのアメリカの世相を知るのにとても優れていると言う。本書によると当時はブッシュ大統領時代の富裕層向け大型減税辺りからアメリカの高所得者が税金を納めない様になった風潮から何が起きていたか?と言う例に財源不足で補修もままならない公共インフラとして補修されず穴だらけだったりアスファルト舗装を諦めて砂利敷きになってしまった公道、古くて傷んだ水道管やら休館を余儀なくされる図書館や学校の地域格差問題を挙げています。

 そう言った税収不足が本書の執筆後も続いて終いにはトランプ大統領が選挙中に言ったラストベルトに繋がるのだなと、本書では過激なティーパーティー運動やリバタリアンと言った税金を払いたがらない集団と言う形で顕在化したかのようなアダム・スミスの「見えざる手」が機能しない現状を嘆いています。しかし、2018年の今となってはリバタリアンも左派も想像だにしていなかった「超見えざる手」とでも言うべきトランプ大統領を生み出す結果になったと言う意味では「見えざる手」はちゃんと仕事をしていると思う。それが地獄への一丁目一番地なのかそれとも新しい市場経済のルールなのかはさておき、トランプ大統領の出現についてフランク教授は何と言っているのか知りたい。

 同時に大統領選挙で富裕層代表みたいな立ち位置になったクリントン候補が何故あそこまで人気が無かったか?と言う事が本書の税金を払おうとしない高所得者と言う2010年ごろの問題点を明らかにするとそう言う事だったのかと変に納得してしまう、ハリウッドセレブも本書で指摘する税金を払いたがらない富裕層そのものだからね、立ち位置が例え左派やリベラルだったとしても本書で描き出されたアメリカの格差問題を面白く思っていない有権者にはリバタリアンみたいなもんだ。よくある「税金は払わないが寄付はしている」と言う反論については、政治家への献金が公正な政治を遠ざけているとして本書では寄付へは否定的です。

 「個と種の対立」を税金を払いたがらないリバタリアンと税収不足で苦しむ行政府に持って来る本書はダーウィンの種の起源を理解する上で正しい例示なのかどうかもわかりません。しかし伝統的な経済学のモデルには実は無い事にされた「背景」がありその背景抜きで理論構築するのはおかしい、と言うテーゼはダーウィンなのかな?格差を生む要因は比較性であり、周囲と比較して自分がより優れた物を持っているか否か?と言う相対性が合理的経済人ではないヒトの行動原理だろう。

 その言い分を検証する為に1991年にノーベル経済学賞を受賞したロナルド・コースを引っ張り出しているのが本書のお値打ちじゃないだろうか?経済学者ダーウィンについて入門者が本書から学ぶ事はとても難しいのですが、ロナルド・コースの取引費用理論については良くわかるのでむしろコースの入門書になっていると言う。ただとても合理的な「コースの定理」は理論上の経済人とかけ離れた有権者受けは良くないような?それもトランプ大統領の誕生に繋がっているのかもなと。

 どうにも2018年となってはアダム・スミスに特段の落ち度は無かったと言う気もする、スミスには「道徳感情論」と言うもう一冊の偉大な本があり、2010年以降にはこちらの方が国富論より評価が高くなっていると思うのでこちらもフランク教授に語って欲しいです。


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